第61話 報告と釣り

「やはり、スティグマの仕業であったか……」


 と国王は苦い顔をして呟いた。


「はい、レン殿がスティグマを確保して確認しております」


 とハルカが説明を行う。



 現在レン達は国王の元に訪れ、呪印の報告とスティグマの話をしていた。


「私の国や周辺諸国で、長年にわたり何らかの悪事を働いているがここまで大規模なことを仕出かしたのは最近になってのことだ。フェレンスでのモンスターパレードのようなことになったら厄介だな」


「ええ、フェレンスでのモンスターパレードは、黒龍をも出現させた危険なものでした」


 レンは、少し前に経験した死闘を思い出す。


 あれは、最悪と言っていいものだった。死すら覚悟したし、正直強力なスキルと仲間がいなければエリアス共々死んでいたことだろう。



「そういえば、レン殿やエリアス殿も活躍したのだったな。破黒の英雄に断黒の刃だったか」


 と思い出すように国王が言う。レンとエリアスの二つ名だ。


「まさか……その呼び名は王都まで来ているのですか?」


 恐る恐るレンは聞く。なんで知ってんだよと思った。


「これから王都でも知れ渡っていくと思うぞ?」


 返ってきた回答にレンは恥ずかしくなった。噂ってすごいと思った。



「さて、スティグマについて話を戻したいと思うが、私もレン殿をスティグマが捕捉するのが速かったと思う」


 国王はレンと同じ意見のようだ。


「どこかにスティグマが紛れ込んでいるとしか考えられないですね」


 ハルカは辺りを見回すように言う。


 もしかしたら、城に裏切り者がいると考えているのかもしれない。



「また俺を狙うかもしれないので、その時はまた捕まえたいと思います」


 呪印を消せるのは今の所俺だけなのだ。始末するため狙われる可能性は大きい。


「フェレンスで行ったことから考えると、ただ呪印をばらまいただけでは終わらないはずです。注意してください」


 と忠告される。



 今は、ルティアと国王が会話をしている。


 国王は、危ないのではないかと説得しようとしているが、ルティアは行くと言って聞かない。


「レンがいるから大丈夫よ!」


「しかし、レン殿に迷惑ではないか?お前は、回復魔法しか使えないし、自衛できないのでは危ないぞ」


 と言われている。


「お父様を説得してよ。レン!」


 とうとう自分に矛先が向いた。


 国王の言う通りにした方が良いと言ったら怒りそうだな……と思いつつ頭をフルに回転させ解決案を考える。フル回転させるほどの頭をもってはいないが、


「スティグマと戦闘になった場合には、やはり優れた回復魔法使いが必要になるかと思います。ルティア様のお力は確実に必要になると思います。どうか私の力を信用していただけないでしょうか?」


 ルティアにどれくらい回復の実力があるかはわからないが、言ってみる。



「何と!娘にそれほどの力があるとは……」


 と国王は衝撃を受けていた。


「さすがはレンね!私の実力を良く理解しているわ」


 とルティアはドヤ顔をする。


 実力を見たことがないとは口が裂けても言えないなと思うのだった。



 なんとか国王の説得に成功し、レン達は帰ることにした。



「これからどうするつもりですか?」


 とハルカがレンに質問してくる。


「そうですね……まだ呪印も全て消せていないでしょうし、体調が悪い人を見て回って消していけばスティグマが出てくるかもしれません」


 スティグマに呪い以上の目的があるとすると、それを妨害するレンは邪魔になってくるだろう。


「エリアス殿は、戦えるでしょうけどルティア様のことは良く見ておくようにお願いします。身元がバレているかもしれない」


 と言われる。


「ええ、それでハルカさんはどうされるのですか?」


「私は、私でスティグマを探ってみようと思います。空振りになるかもしれませんけどね……」


 と言い去っていく。


 何か危険なことを考えている以上、すぐにでもスティグマを見つけないとなと思うレンだった。





 夜、レンは街中を歩いていた。エリアスとルティアは、宿においてきたためレン1人だ。


「今の所、怪しい気配はなしか……」


 索敵を使いながら呟く。


 さすがは王都と言えるだけあり、夜でも屋台などが賑わっている。酒を楽しむ声や喧嘩している声なんかも聞こえてくる。


 レンは、スラム街に向かう。どんな国であっても貧しい者というのは出てきてしまうものだ。ここにいる者たちは病気などの治療もままならない。


 表の通りの人は、こちらに近づいたりしないため、あまり知られていないことだが、スラムでは人が倒れているなど日常茶飯事だ。


 レンの目が早速倒れている人を捉える。


 倒れていたのは子供だった。


「やっぱりあるな……」


 とレンは呟く。


 いきなり呪印という当たりを引いた。ハズレと言っても良いかもしれないが……


 アンインストールして、他の人を探す。何度か繰り返すうちに索敵に怪しい気配が引っかかった。


「来たか……多分スティグマだろうな」


 とレンはいつでも動けるように準備するのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る