第43話 白髪の少年と決着

 レンの目の前には、白い髪の少年がいた。歳はレンと同じくらいだろう。どこか懐かしいような感覚があるが思い出せない。


「ここは君の心の中だよ。だからナビゲーターさんは、返事ができない」


 と言った。


「あと今、君は回復してもらっているところだ。もう少ししたら目を覚ますはず」


 青年は優しく呟く。どうしてだろうか、彼の言葉には信頼感がある。


「でも回復したところで勝てない」


 そう全く歯が立たなかった。もうどうしようもない。


「ふふ!もう少し君は周りを頼ってもいいんじゃないかな?自分一人で出来ることには限界があるからね」


 と言う。


「何で俺のことを知ってるんだ?」


 一体何者なのか……


「僕は昔から君を知ってるよ。ずっと一緒にいたから。おっと、そろそろ時間になるね。君を信じてる人がいることを忘れないでほしいな!」


 と青年は言った。


「確かに、もっと頼ればよかったのかもな……」


 俺は1人でどうにかしようとしていた。この世界に来て自分の力に酔ってたのかもしれない。周りには冒険者もいた何か良い方法があったかもしれない。


「君の守りたいと言う気持ちは本物だ!僕も少しだけど力を貸すよ!友達のためだ」


 と言って青年は笑った。


「少し君の身体を借りるね」


 と青年は言って消えた。


 レンは、自分の意識が戻るのを待つのだった。戻った時に自分がどう動くのかを考えながら……






 レンの回復が完了し、エリアスとカーラはガレスとナティアの戦いぶりを見ていた。Aランクにふさわしい戦いぶりだ。カーラは、回復担当のため戦闘には不向きで、時々回復を2人にかけていた。


 ブレスを撃たれないようにガレスとナティアは攻撃をしていた。


 エリアスは、素直に感服した。


「ガァァァァァァァァァァァァァ!」


 黒龍が大きな咆哮を行い、みんな耳を塞ぐ。


 この一瞬の隙が黒龍のチャンスになる。


「グルルルルルルルル」


 ブレスを貯め始めた。


「まずいわ!」


 カーラが言った。


 その時2人の後ろで起き上がる音が聞こえたため振り返る。レンが意識を取り戻したと思った。




 だが、そこにいたのは白い髪の少年だった。


「あなたは誰?」


 カーラが杖を構えて声を出す。


「僕は、レンだよ……。今は、黒龍を倒さないといけない。協力してくれないかな?」


 と微笑みながら答える。どこか安心感を与えるような印象があった。


 確かに髪が白くなってるところ以外はレンと変わらない。


「わかったわ……」


 カーラは頷く。なんらかのスキルを発動させたのかもしれない。エリアスも何も言わないためそっとすることにした。


「ブレスは、僕が防ぐから任せて」


 と言って黒龍の方に向かう。


 堂々と歩いてくるレンに、黒龍は、驚きながらも倒せるだろうとブレスを放つ。


「僕が手助けするのは少しだけだ。そんなに長くはこちらにいられないからね。後は君とみんなの力で倒すんだよ、レン!」


 白髪の青年は、手を前にかざしながら言う。



「消し去れ。デリート!」


 ブレスは、初めから存在しなかったかのように消え去った。


「今、何が起こった……」


 Aランクのパーティの全員が揃ってそう言った。


「ついでに防御力と翼も片方奪っておいた。頑張ってね!レン」


 と言った直後髪が黒くなり元のレンに戻る。


「戻った……今は黒龍を倒さないと」


 レンが意識を取り戻した。


「みんな!力を貸してくれ!ここで黒龍を叩く!」


 レンは、大声で叫んだ。


 レンの声は、街の入り口に隠れている冒険者たちにも聞こえていた。


 レンは、二刀流になり黒龍に斬りかかる。


「インストール!限界突破」


 ここが使いどきだと思いインストールする。


 レンの隣をエリアスが並走する。


「俺1人じゃ絶対に勝てない。みんなで勝とう!力を合わせれば絶対に勝てる!」


 と声をかける。


「任せて!私もあなたの力になるから」


 と答えてくれる。


 エリアスも覚悟を決めた。防具に付与された魔法を発動する。


 そして黒龍の後ろに回り大剣を構えて、武器に付与されたチャージ系のスキルを発動する。


 武器に次第にエネルギーが溜まるが、スキルを発動するまで待ってくれるほど黒龍は優しくない。


 強烈な攻撃がエリアスに当たる。だがエリアスは、吹き飛ばなかった。


「さすがあの人がくれた防具……」


 エリアスが装備していたフルプレート。

 その効果は、高確率で相手の攻撃を受け流すもの。だが連続で発動するとその分、受け流せる確率が下がり防具が壊れるというもの。


 そして防具は5発目を食らった瞬間、胴体と兜が壊れた。運要素があるとはいえ、よく持ちこたえてくれた。エリアスの姿が一部あらわになったため黒龍はトドメを刺そうとするが、エリアスの大剣のスキルの方が速い。


「たぁぁぁぁぁぁぁ!」


 十分に力を貯めた大剣が黒龍の尻尾を切り落とした。


「ガァァァァァァァグガァガァァァァァァァ」


 と黒龍が悲鳴をあげる。


 さらに黒龍を矢や魔法が襲う。デリートにより防御力もかなり失われているため冒険者の攻撃も通る。


「みんな……」


 レンが呟いた。


「いくぞ野郎ども!撃ちまくれ!」


 とガタイのいい冒険者が言った。


 街の方から援護射撃が飛んでくる。


「いける!畳み掛けるぞ!」


 とガレスの言葉にレンが頷く。


 命の危機を感じたのか黒龍が撤退をしようとする。片方しか無い翼でゆっくりと舞い上がる。


「逃げられる!」



 だが、


「させないわ」


 と言った言葉の後、矢が黒龍の翼に当たり大爆破を起こす。


 レンが見た方にいたのは、カーラに支えられたギルド長であった。レンの託した矢をここで使ったようだ。


 地上に黒龍が落ちる。


「今だ!倒すぞ」


 とレンは叫ぶ。レンやガレス、多くの冒険者が一斉に攻撃する。




 そしてついに、黒龍は、動かなくなった。


 ワァァァァァァ!と言う歓声が街の方から上がる。


 レンは、そんな歓声を聞きながら、エリアスの方に向かうのだった。

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