第41話 黒龍の登場と死闘

 ギルド長フィレン・アーミラは、やってくるワイバーンが少なくなったことでレンが上手くやったのだと感じていた。


「なんとかなったわね……え?あれはまさか!」


 安堵したのも束の間、新たな気配を感じる。


 黒いドラゴンが、こちらに向かってくるのだ。


「あれは……黒龍!嘘でしょ……。まさか近くにいたなんて」


 最強の魔物の一角である竜種、その中でも上位に入るものが迫ってきている。


 かつてフィレン・アーミラは黒龍を討伐している。だがそれは、彼女の力が全盛期だったからだ。それに英雄と呼ばれた他の仲間がいれば苦戦などない。


 いくら英雄と言われる今の彼女と言えども竜種に単独で挑むのは命取りである。ここまでの戦闘でかなり疲弊しているため厳しいものになる。


 他の冒険者でも勝ち目はほとんどない。


 黒龍は、ワイバーンを始め多くの魔物をなぎ払いながら街の前に着陸した。圧倒的強者の魔物に冒険者の中には気絶するものもいた。魔物が減ったのは良いことだが、その代わりに最悪な存在が現れた。


「自分を犠牲にしても止めないと…」


 フィレンは、覚悟を決める。






「嘘でしょ?」


 エリアスもただ驚いていた。とてもじゃないが、エリアスが敵うような相手ではない。



 Aランクパーティの3人も黒龍の出現に驚いていた。


「さすがにワシらでも簡単にはどうにも出来んぞ!」


 大胆なガレスであってもここですぐさま挑むような無謀なことはできない。





「私が引きつけるから、みんな逃げなさい!」


 フィレンは、冒険者達の間を走り抜けながら叫んだ。


 美しく髪をなびかせながら走る姿に冒険者の中には、こんな状態にも関わらず目を奪われる者もいた。


「動ける者は、すぐに負傷者を運びなさい。あれは、私たちが勝てる相手ではないわ」


 ギルド長の言葉に冒険者達はすぐに行動を開始する。


 いかにフィレン・アーミラが慕われているかがわかる。


 フィレンは、街から少しでも黒龍を離すために行動していた。弓で攻撃してヘイトを自分に向くようにする。


「私がやられたら終わりね……どうしたら?……あれは!」


 フィレンは、気づいた。黒龍が自分にブレスを撃とうとしていることに。


「まずい!精霊よ、力を貸して!」


 持てる力を使い防壁を張る。


「ガァァァァァァァ!」


 黒龍のブレスが放たれた。


「くっ……あっぁぁぁぁぁぁぁぁ」


 精霊魔法で完全に防ぎきれず、ブレスはフィレンに当たる。


「くっ……」


 並みの冒険者であったなら即死であろう一撃をフィレンは耐えていたがもう身体が動きそうにない。


 黒龍は、フィレンに興味を無くしたかのように街の方を向く。


「そんな……待て!」


 フィレンの悲痛な叫びは黒龍には聴こえていない。


 黒龍が街に突っ込んで行った。街を守れなかったとフィレンは、諦めた……





 黒龍がフィレンから狙いを変えて、こちらに向かってくる。


「ギルド長……これは不味いぞ」


 冒険者が叫ぶ。


「レンもいない……私がやるしかない!じゃないとみんな死ぬ」


 と小さくエリアスは呟く。


 冒険者達の顔が悲壮に染まる。だがエリアスは、黒龍を迎え撃とうとし突っ込む。


「おい!無茶だ!」


 近くの冒険者の制止も聞かずに走った。



 世界の動きが遅く感じる……


 エリアスは、走りながら勝てるはずないのになんで突っ込んでるんだろう?と心の中で思う。


 もう失うのは嫌だったのかもしれない。レンのように誰かを救える人になりたかったのかもしれない。



 少女の命は数秒後に尽きることだろう。誰もがわかっていた。自分自身でさえ分かっていた。


「エリアス……やめて……」


 地面に伏したフィレンは、遠くでか細い声を出した。決して聞こえることはないが。




 エリアスは大剣に手をかけながら突っ込む。せめて少しでも、一瞬で良い、時間を稼げたら……と思いながら


 目を閉じて呟く。


「ごめんねアリー……レン…」


 死に向かう自分は、決して止まらない。




 だが運命は、エリアスが死ぬことを許しはしなかった……


 隣に誰かが現れたのを感じた。同じように黒龍に向かっている人かと思ったが違う。


 そして大切な人に別れを告げた時エリアスの肩に手が置かれる。そこにいるのは、先程別れを告げた相手……自分を救うと約束してくれた人。



「全く、一緒に冒険しようって誘っといて、1人で行かないでくれよ、エリアス。まだ俺も約束を果たせてないんだから」


 そこにいたのはレンだった。巨大な棍棒を担いでいる。


 そしてその棍棒をこちらに向かってきた黒龍に叩き付けぶっ飛ばすのだった。


 転移で現れたレンの存在は黒龍にとって予想外だった。そしてマジックアイテムの棍棒は、不意打ちにとても役立ったのだ。


「ガァァァァァァァ!」


 黒龍の鱗が破損していた。


「スティグマを倒してたら、出てきたから驚いたけど……間に合ったか?」


 とレンは言うのだった。

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