第31話 呪いとエリアス

「一体どういうことだ……」


 レンは、自分の前に表示されているファーティのステータスを見て言った。


 表示されたステータスというのが



 エリアス・ミリー(狼人族)Lv29

  呪印 精神限界

HP1450/1450

MP2010/2010

ATK340

DEF268

〈スキル〉

大剣術

 腕力上昇

 屈強

〈称号〉

呪われし者



呪印に、精神限界……気になる要素ばかりだ。


 レンの困惑している声を聞きつけ、ファーティがこちらを振り返る。


「エリアス・ミリー?狼人族……呪印って一体なんだ?」


 と言った瞬間ファーティの様子が急変した。レンは、小さく呟いたつもりだったが聞こえてしまったようだ。


 レンに向けて大剣を構えて


「なぜそれを知っている!」


 と言いながら近づいてくる。喋ることは出来たようだ。なぜそれを隠していたかわからないが……


「君に違和感を感じたから鑑定させてもらった」


 違和感を感じたのはナビゲーターさんだが……


「私の呪いはステータスにも映らないものだ。だから呪いを知っているということは……お前はスティグマか?」


 と言い武器を振りかぶってくる。これは話し合いを行う余地はないようだ。またスティグマ関連かと思いつつレンも武器を構える。


「戦うしかないか……」


 ステータス的に見てもレンは、ファーティより強い。負けることは無いだろうと思う。


「当たらなかった?」


 剣を鎧に向かって振るが、スカされた感覚があった。装備に何かしらの細工があるのかもしれないため戦い方を変える。


「転移……そして強奪!」


 大剣の横薙ぎを転移でかわし鎧を奪い取る。そして後ろから剣を突きつけ降伏を促す。両手をあげたファーティの顔を見てレンは驚く。


「女の子……」


 レンにとってとても美しいと思える白髪の少女が目の前にはいた。見惚れていたが気を取り直す。


「まずは、言っとくけど俺はスティグマじゃない!ステータスを見てくれ」


 と言いながら見せる。ステータスには犯罪なども載るため納得してもらえる。


 そして少女が口を開く。


「違ったの……ごめんなさい。でもどうして呪いがわかったの?」


 と悲しそうに言ってきた。目の端には涙すら浮いている。


「うーん、君のステータスを鑑定したら普通に載ってるけど。呪いについて教えてくれる?」


「私にかけられた呪いは、私の何も鎧を着てない姿を良く見たり、私と話したり、素手で触ったりした人を殺すもの。強い人でも時間が経てば確実に死ぬ。私は、あなたがスティグマだと思って、声を出してしまったの……本当にごめんなさい。お詫びに私も一緒に死ぬから許して……」


 説明の途中、ファーティが素手で下に生えている花を摘むとその花が枯れた。死に至る呪いはあるらしい。本当にあるのだなと驚く。


 もう会話もめちゃくちゃで精神的におかしくなっているのが感じられた。


「いやいや、命は大事にしようよ。死ぬのはいけない」


『マスターの場合は、呪いはフィルタリングで阻止出来ております。最悪、突破されてもアンインストールがありますので……』


 ユニークスキルすっかり忘れていた……ほんとありがたいよ。


 ファーティは、もう少し経てばレンが呪いで死ぬと思っているだろう。


「あー、ごめん。ユニークスキルで呪いは効かないみたいだから!どんどん喋って大丈夫だよ!ちょっと失礼して、ほら大丈夫俺は死なないから」


 と言いファーティの素手にレンの手を添える。


「うそ……でしょ。だってみんな死んじゃった……」


 余程つらい思いをしてきたのだろう。多分、過去に死んでしまった人を思い出しているのかもしれない。


「ステータスには、精神限界って載ってたし……辛かったんね」


 といった瞬間さらに涙が溢れる。


 レンは彼女が泣き止むのを待つのだった。








「ごめんなさい……誰かと話したりすることもなかったから。それに心がもう限界で……」


 泣き止んだファーティは謝ってくる。精神限界のステータスは、かなり本人に影響を及ぼすのだろうと思った。


「良いよ!気にしない。それよりもう一度自己紹介しよう。俺は、レン・オリガミ。よろしく」


 そう言って手を差し出す。


「私は、エリアス。エリアス・ミリー。よろしくね」


 と言ってエリアスも手を伸ばす。


 今度は握手することができた。顔色は最初に見た時の絶望の顔から大きく変わっていて可愛いと思ってしまった。


 エリアスは、狼人族で頭に耳がついている。そして髪は肩ぐらいまでの長さで、雪のように真っ白だ。


 エリアスのケモミミに興味を持っていたが、今は依頼中であることを思い出し周囲を警戒する。





 だが特に何も異常は見られなかったため調査は、ここで切り上げることにした。


 帰りは歩きのためエリアスと話をしながら帰った。


 呪いを受けたこと、それが原因で家族がみな死んだこと、とてもではないが耐えられるものではないと思った。


 ギルドに着いたため報告を行う。エリアスは、いつもレポートにして提出していたそうだ。


 街に入る前にエリアスは鎧を着た。うっかり誰かが触れでもしたら死んでしまうためだ。


 そして最後に


「レン、また一緒に依頼を受けてくれないかな?」


 とモジモジとした様子で言った。


「そうだね!今日みたいにお喋りしながらやれる依頼を受けようか」


 レンに、初めての仲間が出来た瞬間であった。これがレンとこれからずっと共に冒険する少女との出会いだ。







 今回の依頼の結果を聞いたアリーは、驚くことになった。エリアスの精神は、かなり限界まできていたこと。だがそれを教えてもらえてなかったこと。そして、自分自身が気づくことが出来ていなかったことを恥じた。


 そのことで危険が及んだ可能性があるとしてレンに謝罪したが彼は、全く気にしてないと言った。呪いも効かないらしくギルド長の言う通り、本当に凄い人なのだと思う。


 だが嬉しいこともある。

 なんとエリアスとレンがパーティを組むことになったのだ。エリアスの過去について知っているアリーは仲間が出来たことに喜んでいた。


 猫人族と狼人族は仲が良かったため村は離れていたがエリアスとアリーは手紙の交換をするなどしていた。大きくなったら街に行こうと話したりもしたのだ。



 しかし悲劇は起きた。狼人族の村がスティグマによって呪いをかけられた。そして不幸なことにエリアスは自らの呪いによって家族を失ってしまったのだ。


 その日からエリアスは孤独な存在となった。誰とも喋らない、いや喋れないのだ。姿すら見せられない。

 誰も彼女を救えないだろうと思った。

 しかしきっとその予想ははずれる。


 レン・オリガミという存在が現れ、彼女の仲間となったのだから…


 アリーは願う。


「またあなたの声が聞きたいよ、エリアス」

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