第30話 封龍の森とパーティ依頼

「レンさん!ランクアップおめでとうございます!」


 受付嬢のアリーが新しくなったギルドカードを渡してくれる。どこか嬉しそうな彼女の様子を感じた。多分、弟の成長を喜ぶ姉の様なものだろう。


「ああ!ありがとう」


 素直にお礼を言いながら受け取る。


「ギルド長は、レンさんにとても期待していると思いますよ!」


 と言われてしまった。


「がんばるよ……」


 と苦笑いで答えた。目立ちすぎるのも考えものだ。




「お!レン、戻ってきたのか」


 とギルドの食堂の方からレイドが手を上げて声をかけてきた。


「ああ!今戻ったとこだよ」


「ここから見てたぜ。ランクアップしたみたいだな」


「ああ!思ったより速かったよ!」


「今日は、俺に奢らせてくれ。お礼とお祝いだ!」


 と言いレイドがご馳走してくれた。1人でご飯を食べることが多かったので嬉しいものだ。






 レイドやマーティと食事を楽しみレンは宿の方に帰った。



 ベッドに横になりながらレンはスティグマについて考える。


「今日戦った奴は情報のためか自害したけど、最後まで攻撃してくる奴もいるかもしれないな……」


 もしもの時に、俺は敵を殺せるのか……と考えた。


『マスター、無理はしないでくださいね』


 ナビゲーターさんは、本当に優しい。


 徐々に慣れていくしかないのか…と考えるレンだったが答えは出なかった。ラノベの主人公のように人を殺しても何も感じないなんて有り得ないのだ。




 いつの間にか眠っていたみたいで、外はもう朝になっていた。夢に出てこなくて良かったとホッとする。


 いつも通りというほど、ここで生活してないがギルドに向かう。


 途中でガルドに出会った。


「よう!坊主、ランクアップしたんだってな。速くも俺と同じランクに並ばれたな……」


 祝ってくれてるようだが少し悲しそうだ。ガルドも優しい人なのだ報われて欲しい。


「たまたま運が良かったんですよ!」


 レンは話が広がるのが早いなと思いつつ会話する。


 元の世界でも噂なんかはすぐに広まるが世界が違っても同じらしい。


 ガルドと別れてギルドに入る。


 いくつかの目線を感じるがランクアップしたことの興味とかだろうと判断して無視する。


 依頼掲示板を眺めながら何を受けようか考えていると興味深いものを見つける。


 封龍の森の調査依頼


「これは最初に俺が出た森」


 全てが始まった場所…


 まぁ格好つけて言ってみたかっただけだが…



 この森を調査して異変があったら報告して欲しいようだ。報酬もかなり良い。


 この依頼をアリーに持って行った。


「はい!封龍の森の調査ですね。こちらなのですが、もう1人受けたいと言う方がいらっしゃるのですがパーティを組んでいただけませんか?もちろん実力は十分です」


 場所が場所だからな……人手があるほうが良い。


「わかりました!構いませんよ」


 と答える。


「それでは、もう1人の方を呼びます」


 そして呼ばれて来たのはフルプレートを着た人だった。性別すらわからない。


「こちらは、ファーティさんです。実は声が出せない病気にかかってしまっていて会話ができないのです」


 アリーは、顔を曇らせながら言った。訳ありらしい。


「そうですか……俺は気にしませんので、よろしくお願いします!」


 と握手しようと手を出した。


 残念ながら握手はしてもらえなかった。なんか恥ずかしい。


「悪い方ではないので安心してください」


 と苦笑いのアリーに言われたが不安だと思うレンだった。


 森の近くの方まで馬車で送ってもらった。帰りは歩きだ。


「それじゃあ行きますか!」


 とファーティにレンは声をかける。頷きが帰ってきたことにホッとする。


 まさか初のパーティ依頼が喋れない人とは思わなかった。だが冒険者は実力主義だ。たとえ片腕がなくとも強い人はいる。



 森の中に入り索敵を使いながら、様子を探る。前の時と変わった様子はない。時々魔物に遭遇するが簡単に倒せる。


 最近はレベルが上がりにくくなっていると感じている。45からは厳しくなるのかと考えることにしているのだ。


 ファーティの武器は大剣で、使い方がなかなか上手い。レンは、スピードを重視して重い武器は好まないためゲームなどでも大剣は使ったことがなかった。


 フルプレートに大剣、かっこいいな!と思いながら見つめていた。喋れたら技術を教えてもらいたかったものだ。


 森のひらけた場所に出た。ここでナビゲーターさんが頭の中で話す。


『マスター、ファーティという人を鑑定してみてください。何か違和感を感じます』


 と言うのだ。


 どうしてか聞きたかったがナビゲーターさんを信頼してるため鑑定を使ってみる。


「鑑定!」


 そして表示されたファーティのステータスを見てレンは、驚くのだった。


 そこに表示されているステータスの名前はファーティではなく、称号にも無視できないものが載っていた。無意識に自分の目が鋭くなる。


「一体どういうことだ?」


 といったレンの言葉は封龍の森に静かに溶けていくのだった。

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