第30話 外見だけなら充分いける
無駄に薔薇とか背負って似合いそうな顔面。枝毛とか無縁そうな銀髪に金眼。
顔だけは良いな。チビでもなく、身体のバランスも細身ではあるけどヒョロガリではなくて何着せても様になりそうではある。
つまり、外見だけなら充分いける。
でも、だ。
「不合格」
「なっ、に」
「外見『だけ』なら合格だよ。そんだけでアイドル出来るならな」
おいユニ、「え。あれでもダメなんですか?」って顔すんな。今まで何を体験してきた。
「そもそもいきなり決闘とか言い出す常識の無さと無礼さがダメだろ。どんな法か知ってるならそれが『誰のために』作られたかまで認識しろ。認識してるにも関わらずやったならそれこそねぇよ」
あー、もう、何で俺が他人様の領法まで言わねばならんのか。今日は濃い諸先輩方とあの狸理事長のせいで疲れてるってのに。
「あれは力無きもの、不当に踏みにじられた者を救済する為の法律だ。基本人間仕様だ。『格下』が格上に挑む為のものだ」
第三者……えーと、何か木の実みたいな名前のが顔色を赤くしたり青くしたり忙しないな。
「格下なの?」
首を横に倒しながら聞いたら第三者が固まった。音でもしそうだな。ピシッて。
何でユニは、はわわわ……って感じになって右往左往してるの?
第三者プルプルしてるし。
「お言葉、ですが」
震えたまま第三者が低く声を絞り出す。カシスジュース飲みたいな……。
「なに?」
「それを、言うなら、何故、無礼も何も無さそうなこんな野暮ったい粗野な見た目と全然自分の幸運な境遇も噛み締めなくて災難とか思ってそうな勘違い野郎は良いんですか?」
凄いな。後半一気に一息で言ったぞ。めっちゃユニディスってるけど。
「いや、災難……とはもう…………幸運だとは思って…………一応自分なりに頑張ろうと、ひっ!」
「…………」
ゴニョゴニョ言ってるユニに射殺せそうな視線を向けるカシス何某。
「んー……ルネが欲しいって言ったから?」
それがまず第一。てか、ほぼそれ。
「呼んだー?」
「噂をすれば影が差す……」
伯父上の相手はどうした。終わったのか。終わってても今日はもう帰って来ないと予想したのに外れたな……。
ん?
カシス何某、物凄い顔でルネ見て固まってる。
何だろあの形容しがたき表情。いや、見たことあるような?
え。ちょ、泣き出した。怖い怖い!
「あれ? キミ」
ルネはカシス何某に見覚えがあったらしく、小首を傾げたがすぐに笑顔になる。
「いつもライブ観に来てくれて、お手紙くれる子だよね? 応援ありがとー」
「っ…………! ……!? ……と」
いや、怖い! マジで怖い!
ドヴァ……とカシス何某の目とか鼻とかから何か溢れてるんだが。多分、涙とか鼻……え、血? 鼻水と鼻血だとどっちがマシか判断に迷うな。
「どぉどぃぃいいっ……!」
なんて言ってるのかわからん。
ガクゥ! と崩れ落ちてる姿が、ごめん、キモいとしか……。
関わらない方が良いやつだ。ユニも同じ見解のようで、青い顔してこっちを見てきた。
なんでこうもルネのファンて色々ヤバいのしか居ないんだ? いや、考えて見れば双子のファンもアレな人達だし、これはもうあの一族のファン……あの一族にはアレな人達を惹きつける何か……いや、俺は違う。断固として違うと主張する。
俺とユニは巻き込まれた一般人。……そうか、だからユニにちょっとシンパシー感じるのか。納得。
「んーと?」
小鳥が首を傾げるようにルネがカシス何某を見る。
「いや、何か、ユニが加わるのが気に入らない、系の?」
「あー。そうなの? ふーん」
そうだよな。ふーんだよな。
ルネにとってこれはそんなもんだ。
「つまり、自分の方がユニより相応しいってコト?」
「まあ、そういう主張で間違いないんじゃないか」
「なるほどー。じゃ、比べてみる?」
「「「は?」」」
にっこり笑むルネに不吉なものを感じる。すげー厄介な予感……。
ピシッと片手の人差し指を立ててルネは言う。
「今度のライブ、ユニとヴィルカシス君が出て、他のファンにどっちが新メンバーに相応しいか決めてもらおう!」
「おい。いきなりとんでも無い事を言うなこのバカッ!」
どーすんだよその変更をした場合の調整諸々! 確実に俺の仕事だろ!
本当はド頭を引っ叩きたかったが、ファンの手前、襟を締め上げるだけにした俺えらい。
「やーん。苦しいよ、レフ」
「あんまりふざけた事ばっか言うならこのまま落とすぞ」
「ふざけてないのにー。真面目だよ?」
「なお悪いわこのバカ!」
これ以上仕事を増やして学生なのに俺を過労死させる気か!?
「れ、レーティさん、気持ちはわかりますけど、本当にやらないで下さいっ」
「止めるなユニ。あと敬語。くだけ具合『だけ』はこれ見習って良いから」
「あわわ……目ぇ据わってますって!」
おっと。アイドルとしてしちゃいけない顔になるのは宜しくないな。落ち着け、俺。
思いの外、力が込もっていたらしい。ルネの襟から離した手のひらが白かった。
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