第29話 決闘だ!



「お、お茶です!」

「遅い。ミルクと砂糖がない」

「すぐに!」

 シル先輩とミト先輩がバタバタと給仕……。

「お茶菓子は? それとテーブルもない。もういいや。どっちかがテーブルやって」

 シル先輩が給仕してミト先輩は四つん這いでテーブルになった。

「ふう……。ごめんね。この子達、全然気がきかなくて」

「いえいえ。目的達成したらすぐ帰るつもりだったので」

 にっこりと理事長はパイプ椅子に腰掛け、一口飲んだティーカップとソーサーをミト先輩の背中に置く。

「そうそう。新しいメンバー入れたんだよね? 僕にも紹介してくれるかな?」

「はい。……ユニ、自己紹介」

 いつの間にか壁際で気配を消して佇んでいたユニを呼び寄せる。首を横に振るな。来い。

「ユリティニカ、パンスです……よろしくお願い、します」

「ちょっとこっち来てくれる?」

「はい……」

 おっかなびっくり理事長に近づいていくユニ。

 大丈夫だ。とって喰ったりはしない。多分。

 理事長が小さな指にユニの前髪を挟んで、少し持ち上げる。

「ふぅん……。レーティフィバリス君」

「はい」

「この前髪どうするの?」

「本人次第ですが、一旦は切らずにピンで留めるなどで対処しようと思っています」

「そ。顔見せるならいいや。ありがとう」

 パッと手を離して理事長は満足そうに再び紅茶のカップに手を伸ばした。

「あの、何で前髪?」

「何でってそりゃ、商品価値は最大化しないと」

 ユニの問いにそう答えると、質問した当人はキョトンとした雰囲気になる。わかってないなこれ。

「理事長も出資して下さってるから」

「そ言うこと」

 満足気に笑む(見た目は)ショタ理事長。

「期待してるよ〜。あ。次のライブのチケット手配よろしくね」

「はい。後ほどお送りします」

 一応俺達、部活動としてやってるからな。

 ちなみに理事長は初等部から大学部までの統括理事だ。

「何か必要なものがあったら遠慮なくこの子達に言ってね。とりあえず今度来るまでに応接セットくらいは用意させておくから」

「お気遣いなく。先輩方には充分良くして頂いていますし、いつも丁寧迅速な対応で感謝していますから」

「はぁ……中等部の子でもこれくらい出来るのに、キミたちときたら」

 理事長の視線にシル先輩とミト先輩が呻く。

 あんまりイジメないであげて下さい。後で機嫌取るの面倒なので。

 まあ、用事も済んだし。ここは静かーにお暇しようかな。



「あれ放って帰って良かったんですか?」

「ユニ、また敬語」

「うあ。えっと、良かったの?」

「大丈夫大丈夫。むしろ長居するとユニも根掘り葉掘りされるよ?」

「あー……」

 大学部から中等部の校舎に帰って来た。

 多分もうそろそろ親戚接……親戚同士の団欒も終わっているだろう。終わって無かったらそのまま帰ろう。

 そんな事を考えて廊下を歩いていた……んだが。

「ああぁぁぁぁぁぁぁぁ⁉ やっっっっと見つけたぞ!」

 え。なに。何かトラブルの予感てか本気で誰? 誰が誰に言ってる? 俺の聞き覚えない声だから俺達じゃあ無いよね? え。でも何か足音がこっちに駆けてきてる?

「お前!」

 猛スピードで後ろから駆けてきた見覚えの無い人物が振り返った俺達の前で急ブレーキを掛け、ビシッと指差す先は……ユニだった。

 てか人を指差すとか無礼だな。

「お前、決闘だ!」

「は?」

 ユニの顔が真顔で固まる。

「お知り合い?」

「全然知りません!」

 超速攻でユニが叫びながら頭を左右に振る。

 しかしなるほど。お知り合いではない、と。

 なら、

「どんな恨み買う事したの?」

「そんな心当たりもありません! 知り合いじゃないって言ってるじゃないですか!」

 いや直接的じゃなく、間接的にってセンも捨て切れないじゃん? と、常日頃ルネと接していると思うワケよ。

「僕を知らない⁉ お前っ」

「いやいやいや、当たり前でしょ⁉ どこのどちら様ですか⁉」

「僕の名はヴィルカシス・コルディエ・リュコス! この名を聞いたからには決闘は確定だ!」

「いや、なんで⁉」

 ユニが即ツッコんでいる。

 そりゃ、この名を聞いたからには死んでもらおう、くらいのニュアンスで決闘確定させられればそうも言いたくなるよな。

「お前如きが新メンバーなど、断じて許さんっ!」

「は? いや、あの、別にやりたくてやるわけじゃ」

「はあああぁぁぁっ? やりたくてやる訳じゃない? は? お前、なんなの? 今すぐ辞めろ!」

 いや。ユニが辞める辞めないは君に決められる事じゃないな? ユニ自身だって決める権利が今はないのに、ぽっと出の第三者なんて論外。

 という事で止めようか。

「ストップ。うちのグループメンバーに口出せる権利をそちらはお持ちでないですよね? ユニも迂闊に喋らない対応しない。ややこしくなるでしょ。そして俺の仕事が増える」

「う……ごめんなさい」

「わかればヨロシ」

 気まずそうに項垂れるユニに頷きつつ、俺は改めて第三者に目を向けた。

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