第20話 じゃ、引っ越そう
「わーい! じゃ、さっそく引っ越そうね!」
「え゛」
「そうだな。契約書に署名もらったし、もう手続きOKだし」
こんな危険地帯さっさとトンズラ決めよう。
ほんといつ何が起こるかわかんないし。くわばらくわばら。
そんな訳で俺が手を叩き、ルネがどこからともなく取り出したホイッスルを一吹き。
「やっちゃってー」
「え? え? え?」
ユニとそのご家族が目を白黒させている内に現れる全身白い服装の団体。一斉に手早く、もう光の速さで家財一式を梱包していく。
「ユニとそのご家族はこちらをお持ちください」
予め用意していた転移石を渡す。勿論、全員分。
なおこれも融資の中に込みである。
「あの? これは」
「安心して下さい。新居へ一旦全て運びますから。その後で要る要らないは出来ますよ。あとこの転移石は新居前に設定してありますから」
「ユニは弟ちゃんと妹ちゃんに使い方教えてねー」
そのまま転移石で移動。
行き先は第一階層、ユニ家族の新居前。
雲に届く一山を中心に複数の山が連なる山脈、白玲山脈。どの山も頂には雪が消えることなく残り続ける事から別名は
そんな山の中腹あたりに位置し、周囲は濃い緑の針葉樹林。現在晩春というかほぼ初夏という事もあり地面には慎ましくも可憐な野の花が揺れている。
家の周囲を軽く囲む素朴な柵とアーチを描く簡単な扉のないゲート。
「あの柵は簡単な結界の役目があるよ。雪崩とか魔物はあの柵からこっち側には来られないから安心してね。あとこれ、兄様から引っ越しお祝いだって」
ルネがいつの間にか側に跪いている黒子から、捧げられているカンテラを当たり前のように手にしてユニ家族へと差し出す。
「魔物除けと、天候含め環境の危険を察知して色変わって明滅してくれる灯り。予備も渡しておくね」
夜に見回りする事があれば良ければ使って、と。
雪豹の獣人なら夜目は利くからいらないかも知れないが、あって困るものでもない。灯りとしてではなく、どちらかと言えば付与された効果の方が本命だ。
「さ! お家も見て! これが鍵!」
何が何やらと目を白黒させているユニ父君に鍵を渡し、新居へと背を押す。
がっしりとした平屋造りの大型ログハウス。玄関部分にはウッドデッキを兼ねたポーチがあり、光彩を取り入れる大きめの窓が玄関横にある。
屋根もしっかりとしていて、雨樋なども万全の状態だし、壁も同じく。雨漏りも隙間風も通る隙など無い。
ユニ父君が恐る恐る鍵を差し込むと、扉が開く。
「わー!」
「ひろーい!」
開かれた扉の先に、ユニの弟妹が歓声をあげた。
平屋造りの代わりに高くした天井を支えるガッシリした梁、そこに吊るされた灯りとシーリングファン、玄関兼居間となる空間は広く、飴色の板張り。この床には床暖房機能の術式が付与されている。
それとは別に今は飾りの置かれた大きな暖炉。冬になればここに薪と共に火が点るだろう。
片側には更に奥へと続く廊下。もう一方は食堂が見え、さらに奥にはアイランドキッチンが。
ユニとその家族が呆然とした顔で家の中へ入ると、居間にすかさず引っ越し業者が荷物を運び込んでいく。と言っても悲しいかなユニ家の荷物って本当に必要最低限だった。数箱運び込んで終わる。
引っ越しお祝いに俺も別途個人で何か贈ろうそうしよう。
「お台所から地下に降りれるから、後で確認してね」
「確か地下には食糧庫と緊急時に使用するセーフルームがあるんだよな?」
「うん。食糧庫にはある程度の食材入れてあるよ。セーフルームの陣はうちの騎士団に直行するやつね」
緊急陣て確か管理人一家の戸籍と連動してる奴だな。登録者か登録者を同伴(手を繋ぐとかしてる)しか使用できない陣だ。騎士団という名の役所の所定箇所に転移するらしいけど、まだ使われたの聞いたこと無いな。ちなルネの所では救急用
「向こうの廊下は、それぞれのお部屋とかお風呂にお手洗い、納戸やお客さん用のお部屋がある方に繋がってるよ」
「お部屋!」
「自分のお部屋⁉」
うわー。ユニの弟妹、おめめがキラッキラだ。かわゆす。お菓子あげたい。
「お父さん! お部屋!」
「見てきていい⁉」
「……あ、ああ。行ってきなさい」
ユニの弟妹が駆け出す。早い早い。
「ユニは? お部屋見なくて良いの?」
「あー……いえ、とりあえず、大丈夫、です」
ルネの言葉に力なく首を横に振るユニ。疲れたよな。仕方なし。
そんな事をしている間にも抜かりなく、優秀な
「こちらが当面、約三ヶ月分の生活費」
仮手続きした口座とカード、そして現金をユニ父君に贈呈。
「こちらはユニカさんの新しい制服と、文具など」
これは御母堂に渡しておく。
「で。ユニには返済と給与振り込み先を兼ねる口座。仮手続きしてあるから、本手続きしてね」
残りは書面で渡してあるから大丈夫だろう。
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