第19話 学園は社会の縮図
ユニのご両親は幼い子供ほど無邪気には喜べていない。そりゃそうだ。同じだったらむしろ心配になる。
「ご夫妻には引っ越し先でお仕事も用意してあります。具体的にはユニカのお父君には領立公園の管理人をメインで、後々はツアーなども行う予定なのでそのガイドなど。これは範囲が広大なので幾つかのエリアに分け、その中でご住居のあるエリアが担当になります」
慣れるまでは月給300,000Cと聞いている。試用期間は半年。その後に改めて見直しを入れて給与の改定が入る仕組みだ。
「お母君には最寄りの村で売店を開くのでその販売員か、ルネのお母君が運営している花畑でのお手伝いなど選択肢があります。どちらもちょっとと言う事でしたら応相談で」
花畑はわからないが、売店の試用期間は三ヶ月。ただ月給がその間は160,000Cらしい。正式登用で200,000Cだ。フルタイムは難しいだろうとの事でシフト制。わりと良い条件じゃなかろうか。
ここから保険料とかそれこそ税金が引かれるから実際に手にする金額は少し下がるが。
「うちはねぇ、病気になったりしたら領民だと治療費に割引あるし、
ふふん、とルネが自慢気に薄い胸を張る。
その背にある純白の翼がソワソワと揺れていた。
「陣を使えば気軽に領都まで行けるし、領民なら領都に入るのにお金も掛からないよ! 領都はたーっくさん、お店もあるし、楽しいものがいっぱいだから絶対来てね!」
ユニの弟妹がそんな言葉にわくわくと瞳を輝かせる。キラキラして眩しい。
まあ実際ルネの言葉はその通り。かつては草原だった場所は今や大都市でエンタメの発信地だし、人間が利用し易いように陣の開発と整備が進んで今では蜘蛛の巣のように張り巡らされている。どこでもすぐ移動出来るので最近は自前で移動出来る魔族でも使ってる事が多い。
幼い子供達のキラキラと好条件にユニのご両親は物凄く揺れている。多分最後の躊躇は……。
「とても良い、身に余る待遇ですが……借り主は私ではいけないのでしょうか?」
ユニ父君が困ったように眉根を寄せながら言う。
そうだよな。子供に債務負わせる形だからそりゃ二つ返事で頷くわけない。いや世の中には二つ返事でやる鬼畜もいるけど。
「先程も申し上げた通り、これはユニカさんが私達のメンバーとして活動することが前提の融資になりますので、私達ひいてはスポンサーが必要としているユニカさんが借り主でなくては意味が無いのです」
物凄い人でなしな言い方するなら、ユニが関係ないならそもそもその家族がヤバい状況でも助ける義理も理由もない。助ける理由と義理の対象が借り主にならないと意味が無いのがおわかり頂けるだろう。
「ただし融資した額の返済はユニカさんだけに限定しませんので、ご家族で少しずつ返す形でも一向に構いません。また、この融資は領の預かりとなるので、他の金融機関に権利を渡すこともしないのをお約束します」
たちが悪い民間だと、借金自体を別の所に譲渡したりするのもあるからな。まあ、複数借りてる場合は一本化するためにやむを得ない時もあるけど。
「それから、ユニカさんには軽く言ったのですが改めて。私達の活動はきちんと利益分配を行うので、ズバリお給料が出ます」
「え。本当に出るの?」
「出るよ」
ライブがない月でもライブに向けてのレッスンはお仕事だ。当然、毎月一定額が支払われる。
ぶっちゃけユニなんかそれこそ文字通り血を吐くくらいレッスンするんだから何も無かったらやってられない。
学園の部活動とはいえ、むしろ学園のだからこそ、利益を上げる事は推奨されている。
学園は社会の縮図だ。
自分達の能力を活かし、それを使ってどう生計を立てていくかを実験出来るまたとない機会。
だからこそ、利益を上げる活動が公認されている。
一部例外はあるけど。例えば風俗業とか。
種族としての生業を持ち込むならありにしなければいけないが、それだと学園の風紀を一定以上乱す事態がおきかねない。そういう諸々があって学園内で娼館などの運営は禁止されている。ホストクラブなどは高等部からは運営許可が下りるけど、色々制約はあるらしいと聞いた。
閑話休題。
そんな訳で俺達はしっかり稼ぐ。歌やダンスなどでファンを楽しませる為に日々レッスンし、その対価として利益からきっちり給与を出して分配している。ライブまでの準備に費やす時間や体力、
「……父さん、母さん。出来れば、この話受けていい?」
ユニが覚悟を決めたようで、ご両親へと向き直る。
「ユニカが納得しているのなら、私達は良い。……すまない。だが、返済は私達に回しなさい」
「そうよ。不甲斐ない親だけれど、仕事まで用意して頂けるなら、お母さん達だってやるわ。それに……返済しながらでも今よりずっと良い暮らしになると思うもの」
まとまったな。長かった。もー、ちょー頑張った俺!
さくさくとユニに契約書に署名捺印もらって、これでやっとユニ正式加入! ここまで長かった! そしてここからが本当の始まりだ。切り替えてこー!
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