第16話 職には困らないから安心してね



 望むものを得るには、時間も能力も、何もかも今のままでは足りない。

 ユニは気にしてないみたいだと言っていたが、ユニの両親も今が良いとは思っていないようだったのが話していて把握出来ている。

 実際、何とか山で採れたものを売ったり、御母堂が編み物とか内職をして、少しずつ貯金をしているらしい。これは遠回しに第二階層の近況を聞いてみた時に出た情報を繋ぎ合わせた感じの半分予想みたいなもんだが。

 それでもはっきり言って足りないだろう。

 納税もそうだが、一番資金が必要なのは他領への移籍。

 他人(他領?)様の事をとやかく言いたくないが、そもそもユニの現在の領地がよろしくない。

 今の時代に戦争規模の争いとかマジないわー。

 暇なの? 命と予算の無駄遣いも甚だしい。

 あと何より、迷惑。

 第二階層に限らずだが、荒れがあまりに大きくなると、他の階層にもその影響が出る。

 戦争で犠牲者が膨大だったり環境破壊しまくると、何故か他の階層にも天災などで影響を及ぼし始める。勘弁して欲しい。誰だよこんな仕組み作ったの。

 それがわかっているから極力争うにしても影響がデカくならないように競争とかゲームとか穏便な手段を取るように努めているんだ第二階層の二家以外。

 十家じゅっけと呼ばれる貴族の中でも上位の家。それぞれが第一から第六階層までを分担して治めている。昔はもう少しあったらしいが、それこそ皆仲良くとはいかず、ドロドロの沼化してなんて事も。そしてその時は各階層、かつてないほど荒れたらしい。もう、他人と争っている場合じゃないくらい。

 生きていくのに全力にならないとヤバくて、結果として争いをやめたら徐々に荒れが収まった。

 そこで記録とか色々調べた結果、どうやら各階層はそんな感じで一蓮托生、連帯責任を取らされる関係にあると。

 知った当時の奴らも一様に黙っただろうな。俺も初めて話聞いた時は、んな馬鹿なって思ったし。

 それでも事実そうらしい。マジやめて。

 閑話休題。

 とにかくそんなもんだから、普通は領地同士の仲が悪いからってそんな争う姿勢をバカ正直に取らないのに、第二階層の二家はやるから他の十家からもうわぁって目で見られてる。

 そんな所の片方に我がメンバー(とその家族)を置いときたく無い。怖い怖い。とりあえず安全な所に逃がすのが急務だ。

 環境はパフォーマンスに影響するし。

 家族の為に足掻くくらいだ。その家族の誰か一人でも欠けたらどうなるかなんて、火を見るより明らかだろう。

 だから今回の提案は呑んでもらわなきゃ困るんだよ。

「そこで提案なんだけど、ユニのご家族まとめてルネのいる領地、第一階層のシアンレード領に引っ越さないか?」

「え。シアンレード領って……無理。領への入籍費なんてとてもじゃないけど人数分用意出来ない」

「待て待て。話は最後まで聞いて」

「そーだよー。それに、入籍費がいるの、領都だけだよ?」

 第一階層シアンレード領。その昔はなーんにもない所だったらしい。うちの父いわく、現在の領主に引き継ごうって頃から急速に発展して、今では領都は入居者順番待ち状態だ。

 中々空きが出ないのに皆が領都希望するから、領都住みで入籍しようとすると入籍費が掛かるようになったんだとか。それでも希望者減らないし。

「昨日、兄様に聞いたら父様に申請してOK出たって。何かたまたまその書類と話聞いた母様も乗り気で、元々斡旋予定だった仕事の他に、母様の管理してるお花畑とかのお仕事もあるって言ってたよ」

「珍しいな……。いつもは首突っ込んで来ないのに」

「ボク達に関係してる事だし、母様、そういう話に弱いから……」

 ルネの御母堂、人助けとかには積極的だって聞いたしな。ただ、すぐ騙されそうで心配になるらしいけど。

「で。元々兄様が用意してくれるのは領都じゃなく、領都から北に数百キロ離れたとこにある領立公園なんだけど」

「あー、あの雪の山脈ある?」

「そうそう」

 領都の北にいった所にある山脈がそびえる広大な領立公園。公園て言っても街中にあるのとはわけが違う。

 そこに住む動植物など生態系を保護・保存する為の特別な地域。それが領立公園である。

「観光用に公園内に村を作って、その他にも管理人を複数名派遣する必要があるんだよねー」

 で、ユニのご家族にはその管理人ポジで働いて貰おうという事か。

「とりあえずユニの父様にはそこの管理人の一人になってもらって、ユニの母様にはうちの母様のお手伝いでも良いし。うち、陣網サークルもうが発達してるから、村からお花畑までも直通か一つ乗り換えで行けると思うよ」

 階層間を行き来する縦移動は転移石、同階層内の横移動は陣。

 陣に関しては駅と呼ばれる場所が予めあり、そこから時刻表に従って移動出来る。

 主に人間が重宝しているが、数百キロとなると魔族でも面倒だから助かる。

「村では観光用の宿やお土産屋さんなんかも作るし、職には困らないから安心してね」

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