第17話 誰かに必要とされたい



「何で……そこまで」

「ユニが必要だからだよ?」

 事もなげに。ルネがそう言う。

 ただただ純粋に。自分の欲しいものを、必要としているものを、手に入れる為に必要な事だから。

 俺、思うんだよ。

 ルネの何が一番怖いって、こういうトコだと。

 誰だって、というと違うって奴もいるかも知れないから大体のって言った方が良いか、ともかく結構な割合の奴が、自分自身以外のに必要とされたいって思ってる。

 必要とされたい。誰でもじゃなく、お前が、と言われたい。欲されたい。

 そんな無意識の、あるいは意識した欲望を、ルネは真っ直ぐに見据えて手を伸ばしてくる。

 あの赤い瞳の奥にある揺らめくほむらは狙った獲物を逃さない。それは気づいた時には手遅れだ。

「ユニは、ボク達に必要だから」

 それだけの価値がある。そう言われて嫌な気はあんまりしないんじゃないかな。俺はしなかった。


『レフ。アイドルやろう?』

『いやなんで。ヤダよ』

『えー、やろうよー』

『だからなんでだよ』

『だって ――――』


「ひつ、よう……」

 ユニの言葉に記憶の彼方から意識が引き戻される。今はこの新たな犠牲者が囚われる所を見ておかないとな。

「うん!」

「ちなみにユニの今いる領地抜ける際の家族全員分の離籍費と、三ヶ月分の生活費、シアンレード領への入籍とか住民登録の手数料、今年度分の納税、引っ越し費用としての転移石も全部丸っと部活とスポンサーから出すから」

「え」

「後で見積もり書渡す」

「そ、それ絶対凄い額に!」

「まあ、だろうな。けど、メンバーだから特別に超低金利で貸すから。具体的には年0.02%くらい」

「いやいやいや、無理!」

「大丈夫だろ。返済期限も長くとって、何なら繰り上げ返済も勿論可能」

 返済するなら早い方がお得。

「いや、繰り上げなんてもっと無理!」

「そんな事ないぞ? まあ、今後次第の所もあるけど、部活動頑張ってファンがつけば」

 今回の額は働いて返して貰う予定だ。

「ユニだけじゃなく、ちゃんと親御さんにも話さなきゃいけないから見積もり持って再度お宅訪問するからそのつもりで」

「頑張ろうねー。ボク達も全力で協力するから! 手始めに、これからは手加減なしでレッスンするね」

「……は? てか、げん? え。今まで」

「手加減してたよ?」

 さも当然のようにルネ悪魔が笑う。

 悪魔だ。しかし、真実。

 今までのお試しでもキツいと思ってたみたいだけど、わりと手加減してた。

 そんな驚愕の事実にサーッと顔を青くするユニ。尻尾もぶわりと毛が膨らんだのか若干太くなって身体に巻き付いた。

「大丈夫だ。慣れれば死にはしない」

「慣れないと死ぬってこと⁉」

 ノーコメント。ツッコめるならまだ大丈夫だな。

「詳しい話は書面にして持ってくから、明日ユニの家にお邪魔します」

「ユニの父様と母様に伝えてね☆」

 カタカタと震えるユニだが、まあ一応これでざっくり概要は伝えたから、後は明日のご両親への説明と契約締結だけかな。もう一踏ん張りだ。

 結構強引に進めてるけど、仕方ない。本当に一日も早くお引越しして欲しいんだ。それくらい今の第二階層の領地はヤバい。怖い。

 こちとら平和な場所で生まれ育ってるから、無理。よくユニ達あそこで暮らせていけてるよ。

 あの環境に比べたらレッスンの手加減無くす方がよほど安全安心だよ。なので、このまま畳み掛けます。

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