第15話 トドメをさすな



「まあ、ユニの選択が目的と微妙に合致してないのはとりあえず置いとくけど」

 話が進まないし。

「ユニが伝手作って就職までしてしたかった事って、ご家族の経済状況含めて環境改善なんじゃないのか?」

「…………そう、です」

 うん。放っておくと色々間違えて思いっきり遠回りしそうな感じはするけど、基本的には健気だな。超が付く不器用感は否めないが。

 ユニがションボリと返した肯定に、軽く俺は片手の人差し指で頬を掻く。

「他人のご家族事情に首突っ込むの良く無いけど、一応詳しくしてもらって良い?」

「詳しく……?」

「改善したいと思ったきっかけとか、どれくらいで改善出来ると思ってたのか、とか」

「…………」

 言い難いよなぁ。ほんと、放っておけよ、とは思うよなぁ。俺も思うもん。

 けど、だ。

 同じグループでアイドル活動する都合上、そうも言ってられないんだよ。特に裏方まとめてる俺は。

 多少、無遠慮でも聞いておかないと後々支障が出る方が厄介だ。ルネも一応リーダーだし、メンバーの事情を把握しておくことはマスト案件。

 なので、吐け。そう視線に込めてユニを見遣る。

「……レフさんの言う通り、父さんと母さんはあまり気にしてないけど、い、今の家の状況、あまり……良く無い、と思ってて」

 正座した膝の上で、ユニは両手の拳を握る。

「自給自足が、そこまで悪いとは思ってない、けど、それでも……父さんが納税代わりに徴兵されるのは、嫌で……」

 ユニの声が震えた。

「だっ、て、いつ、呼び出されて、行ったら、無事で帰ってくるかも定かじゃ、ないのに」

 納税を貨幣でしなくて良い代わりに徴兵される。それは四六時中その可能性があるタイミング的な理不尽さもそうだが、徴兵というのは、訓練じゃない。

 第二階層を治める二つの領地は、仲が悪い。

 一般常識としてそれは浸透するほどだ。

 ほぼ定期的にデカい争いするし、小競り合いなら数えるのも馬鹿らしいくらいの頻度。

 運が悪けりゃ、死ぬ可能性も否定できない。

 一般兵として報酬ありで公募もしてるから、そこに自身の意志で行くなら自由だ。

 けど、納税代わりに徴兵は強制だし、言い方悪いが死ぬ可能性がある以上、納税額がそいつの命の値段だと言っているようなものに他ならない。

 いや、納税額で死んでこいとか洒落にならん。無理。けど、そういう事。

「父さんが、もし、死んだら? 母さんが、ってなる」

 ユニが代わりに行くと言っても、あの御母堂は承知しないだろう。家族仲間は非常に良さそうだった。

「それで母さんも、帰って来られなかったら? 自分が行ったら、弟と妹は?」

 つまり、今のユニの家族は父親一人倒れたらガラガラと一気に瓦解しかねない状況というわけだ。

 だから、少なくとも貨幣で納税する形に変えるのが急務。

「んー。それ、ユニが学園に行かずに就職したほうが早くないー?」

「それも、考えました、けど……」

 ルネの疑問にユニが苦い声音で答える。

「あの領地でつけそうなのが無かった?」

「……はい。確かに、捨て身の覚悟なら就けない事も無かったんですが」

 小競り合いが日常茶飯事なのだから当然、傭兵系の戦闘的な仕事はあるだろうなあの領地。

 でもそれは何の訓練もしていないユニみたいな一般人が応募するのは自殺行為だ。食い扶持を減らす目的なら別として。

「手に職系はそれこそ前々から弟子入りしたりして、が、基本で……」

「あー……。弟子入りも、わりと学園からの縁で、ってのが多いか」

「うん……。そう……」

 専門的になればなるほど、知識や技術が必要だ。

 自分で起業するなら高等部は出ておきたいが、どこぞに弟子入り程度なら中等部でもいける。初等部でもそれは可能だが。

 兎にも角にも、学園の教師や友人伝手の縁故採用が弟子入りの近道。

「高等部は流石に……能力基準が足りなくて…………」

 まあ、どこから学び始めても良い学園制度ではあるけど、一応は入学時にチェック入るからな。

 能力的(学力や身体能力等全般的)に高等部入学の基準に達していなければその前の課程を勧められる。ちなみに初等部は基本そのチェックはない。基礎を学ぶ課程だから。

 なお俺もルネも高等部でも良かったけど、せっかくだからってのと、在学中しかアイドル活動出来ないからなるべく活動期間を取るために中等部入学を選択した。

「でも、ユニってそもそもコミュ力足りないから伝手とか無理だよねー」

「ルネ、人の心にトドメをさすな」

「うぅ……」

 本当の事ほど心を抉るんだよ!

 あー! もう、また話が進まなくなる!

「ユニ、とりあえず話進めるから」

「あ。はい……」

「それで、それだけ?」

「あとは……弟と妹を…………学園に行かせてあげたくて」

 出来れば二人一緒に。そう呟く。

 現時点では、階層が違う家と学園を行き来するなら転移石が必須。だがユニの家ではお手製転移石を一つ用意するのがやっと。

 ユニが中等部で学園をやめたら、弟と妹のどちらかは通えるが、片方は再び順番を待たなくてはいけない。

「出来れば、新しい制服で、美味しいお弁当とか、学食も普通に使えるくらいに……あの子達に、みじめな思いはさせたくない」

 そりゃ、いくら大切にして汚れも少なくても、中古の制服より新品が良い。

 美味しい栄養たっぷりの弁当もしくは、気兼ねなく購買や学食でお腹いっぱい食べられるのが良い。

 大半はそれが普通だし、望む事だろう。

「でも、それ。そのままじゃ叶わないってのは、薄々わかってるんだろ?」

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