第14話 善良低利貸し



「……というわけでして」

 ざっくりユニの加入(ルネが拾って来た)から昨日のユニのご家族とその状態(俺達から見た感じ)を話すと、ルカさんの目が遠くなった。

「そっかぁ……」

 本当にすみません。俺もなるべく手綱引くようにはしてるんですが何せルネなので。

「ルネには後でお話あるから待っててね。それとは別にして、確かにそれはあまり良い状態ではないね」

 そのお話って多分お説教だろうな。無駄とは思うが。

「そうなんですよね。仮にしろ何にしろ、今はメンバーなので、メンバーが心おきなく活動出来る、活動に打ち込める環境を整えるのは必須なので」

「レフ君が資料を作ってくれるとルネが言っていたけど、今あるかな?」

「はい。こちらです」

 作りましたよ。作りましたとも。すげー大雑把だけど一晩でまとめられらとこまでやったともさ。こうなる予感してたからな。

 作った資料を差し出すと、ルカさんはそれに目を通し始める。

「……ふう。この資料を見ると、レフ君もユニさんを助けたいんだね?」

「はい。可能なら」

 ハの字に眉を下げ、ルカさんは資料を見つめていたが、やがて一つ息を吐いた。

「わかりました。私の方でも稟議を上げておきます。恐らく通るでしょうから、ユニさんへの説明はレフ君達でお願いしますね?」

「兄様ありがとう!」

「お手数おかけします」

 よし! とりあえず予算まわり確保!

「くれぐれも……くれぐれもちゃんと同意を取るんだよ? 絶対に無理強いしないようにね?」

「はーい!」

「…………レフ君、お願いね?」

「はい……」

 ルカさん、口の端から赤いものが一筋垂れてますよ。具体的に言うと血ですよねそれ。

 咳をするくらいの気軽さで吐血するんだよなこのお兄さん。胃がシクシク痛むらしく、ルカさんはハンカチで口許を押さえて片手は胃の部分に当てている。白いハンカチが見る間に赤く染まっていくけど大丈夫かな。

「レフ君……本当に、本当に……お願い、ね?」

「あ。はい。ガンバリマス」

 ルカさんの縋る様な眼が痛い。善処します。



「えっと……?」

 ルカさんと話した翌日の放課後。俺とルネとユニの三人は中等部校舎の屋上にある空中庭園、その中央にあるガゼボにいた。第四階層は夕暮れが一番長い。空は茜や淡桃、藤に紺。彩雲のように混じり合う時間を映す。

 イベントでは野外音楽堂にもなるそこそこ大きな屋根付きの上から見たら八角形の建物である。平時の今は幾つかのベンチが置かれ、それでも余る中央には星空を描いた絨毯が敷かれており、現在そこに俺は胡座、ルネは寝転び、ユニは正座して集っている。

「え? どっかわかんないトコある?」

「ルネ、クッキーこぼしながら聞くな」

 後で掃除はするけど。

「いや、全部……」

 まあ、だろうな。

 ユニの置いてきぼり感満載の顔に同情を禁じ得ないのだが。

「本当にざっくり言うと、善良低利貸しとして支援という名の融資しますけど借り入れしません? て事だな」

「借り入れって……」

「んとー、まずユニは一家で引っ越ししてぇ」

「は?」

「兄様がお家用意してくれるから心配しなくて良いよ?」

「いやいやいや、ちょ、ま」

「ルネ、ちょっと黙ってろ。ユニもとりあえず聞いて。二人共、一回黙れ」

 ふー。……よし。静かになった。

「ユニ。先日お邪魔した時に聞いたけど、ご家族ほぼ自給自足で、収入も無いに等しいよね?」

「……まあ、そう、かな」

 現金が必要な時は山で採れた物を村とかに売りに行ってるとは聞いた。

「学園は学びは無料だけど、それぞれの食事は自費だし、文具とかもしかり。交通費もそう」

「…………」

 お手製の転移石。前にユニの昼ご飯が惣菜パン一つだったのとか、そういう事柄から透けて見える経済状況。ついでに言うなら、綺麗に保たれてるけどユニの制服も多分古着だ。

 暗く瞳が沈んでいるのが前髪で隠されてなくても俯く様子からわかる。

「ユニ、学園は中等部だけ行って、在学中に就職に有利な伝手作るつもりだったんだって?」

「え。無理じゃない?」

「ルネ、黙る」

「むー」

 思ってもいま口に出すな。俺もそれ思うけど。

 ほら、ユニの空気どんよりしちゃっただろ!

「人には得手不得手があるし、そもそもユニは中等部からの入学にしたと聞いたけど?」

「ええ。まあ、そうです……」

「人脈重視なら初等部からの方が良いのに?」

「え。そうなの?」

「あー……。うん。それはそうだな」

 ルネの言葉にユニが思わずという声を上げる。

 そして人脈重視なら初等部からが良いという発言には同意。俺とルネは別にそこ重視してなかったから初等部は無難に過ごして中等部入ったけど。

 ちなみに人脈がどうでも良いってわけじゃなく、既に家の事情である程度出来上がってたからだ。

 それと流石に初等部だとアイドル活動するにも制約が多い。一番大きいのは収益の上限とか規模に制限が掛かること。初等部は言っても基礎を学ぶ所であって、基本をみっちりなわけだからそこ以外に注力されたら本末転倒。

 逆に言えば、基本的な一般常識とか知識があれば行かなくて良い。貴族なんてそもそも家でそこら辺は家庭教師やとって履修してる。

 それでも行くのは、主に人脈形成を学ぶ為だ。

 家族や家庭教師など使用人以外との関わり方を学んで、身分の外で自身の人脈を形成する為というわけ。

 それに、初等部からならそれこそ初めから一緒と言えるが、中等部からだと途中から感も否めない。

 仲間に入れてもらう側と仲間に入れる側。どちらが気楽かは人によるが、ユニは間違いなく後者の方が気楽だったはずだ。

 勿論、第三の選択肢として自身を核とした新しい仲間を形成するならそれもあり。けど、ユニはどう考えても無いだろう。そのタイプなら校舎裏に呼び出されてサンドバッグになってない。この選択肢はルネや俺が当てはまる。

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