第12話 聞いてる以上にブラック
「良かったら、次の発表会を観に来て下さい。私達の部活は外部公開を行っているので」
「あら。嬉しいけど……」
「そうだな。出来るなら観に行きたいが、学園は第四階層だからな……」
ユニの両親の顔が曇る。
やっぱりか。
ユニの転移石は、一人しか転移させられない仕様だった。普通の販売されている一番安いやつは触れてさえいれば数人まとめて転移させられるのに。
公開されている術式は最初期のもので、当然そこに便利な機能や拡張が組み込まれて市販品は出来ているから、お手製ではよほどそういうのが長けている者が作らない限り市販品より劣るのは仕方ない。
「いえ、発表は第一階層で行います。シアンレード領で場所を貸して貰えるのと、もしご気分を害したら申し訳ないのですが、私達の発表は人間も観られるようになっているので……」
「ああ、それは大丈夫だよ。でもそうか……第一階層なら一月かければ」
「そうね。馬車の手配をお願いしてみんなで行くのもありね。発表っていつくらいなのかしら? 手配が間に合うと良いけど」
この言い方……あれか。
「えっと、
門間馬車。これは階層と階層を繋ぐ路を往く馬車で、魔獣に引かせた馬車で一月くらいかけて移動するものだ。馬とは限らないから本来は
普通に考えれば自前で移動した方が早い。
が、しかし。門間についてはそれが当てはまらない。
そもそも、階層と階層を繋ぐ門というものが存在している事それ自体が、ある意味で意味がわからない。どうして、どうやって、いつから、何のために、そんなものがあるのか。
そんな意味不明なものとものの間、二つを繋ぐ路は基本一本道だ。そこまでは色々疑問は無視して良いとしよう。だが。
何故、個人によって踏破に掛かる時間が異なるのか。これが本気で意味わからん。
同じ路だぞ? なんでそんな差が出る。
固まって動いている間は同じ進み具合だが、離れれば途端に個人で進捗が異なる。大学部の方では解明しようという者もいるらしいが、未だに成果は上がっていない。
「ええ。門間馬車なら家族で観に行けますから」
「家族旅行もたまには良いわね」
「……その間、お仕事などは」
往復だけで二ヶ月。馬車に乗ってるだけとは言え移動だけで二ヶ月だぞ?
「元々、ほぼ自給自足な暮らしですからそこは何とでも」
「それ、失礼で申し訳ないですが、税とかどうやって……」
領地に住む領民は納税義務がある。領地によって税率や納めなくてはいけない税の額は異なるのだが……ぶっちゃけ第二階層はわりと重いと聞いてる。
「ああ。私達は山のこの辺の管理を請け負っているのと、徴兵があれば応じる形で支払っているから」
なる、ほど。聞いてる以上にブラック。
一見、労働で支払っているので優しく見えるが、それ上限とか無いよね?
回数とか、合計時間とかじゃなく、無条件に年がら年中いつでも都合良く使われても文句言えないし、現金報酬なしだからいつまで経っても自給自足から抜け出せない、抜け出せないからそのまま同じ条件でタダ働きし続けるしかない……わお。
やっば。無理。
一番ヤバいのはこの仕組みにこの人達が危機感持ってなさそうな所か……。もしくは諦めてるのか。
うっわ、面倒くさ……。けど、なぁ。
とりあえず顔には当たり障りのない笑みを浮かべて話に相槌うちつつ、さてどうしたもんか。
だってルネはユニが欲しいって言ってる。このグループに入れると言ってる。つまり、ユニを定着させるのはマスト条件なんだよ。
最悪は代わりになる人材を捕まえなきゃいけない。
代わりって軽く言うみたいだけど、本当に簡単ならとっくに入れてる。それが出来なくてやっとユニを見つけて入れたわけで……。
能力として申し分なくても、ルネが無しって判断したらそれまでだしな。
つまり、だ。
これはどうにかしなきゃいけない懸案事項と。
メンバーの管理、メンバーが最大限のポテンシャルを発揮できる環境を作るのも、俺の役割。
「ママー! ルネおねえちゃんのお歌観に行けるの⁉」
「お父さん、行ける⁉」
話早いなどうなってる⁉
ユニの弟妹が遊びでテンションMAX状態で家に入ってくる。その後ろから両手で顔を覆うユニ、満足げなルネという構図。うん。ルネしかいないな犯人。
「そうだな、観に行けそうなら行こうか」
「そうね。日程教えてもらえるかしら?」
「あ。はい。えーと……ちょっと確認してから改めてご連絡しますね」
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