第11話 ご家族って?



「あれがそうー?」

 数メートル先に小屋が見える。うん。悪いけど小屋だ。

 一階建て、所々に苔のある木造、オブラートに包むと木こりの山小屋、包まない場合はあばら家って言う。

「…………」

 心なし、ユニの顔が暗い。

「そう言えばユニのご家族って?」

「父と母、それから弟妹が一人ずつです」

 ユニ入れて五人家族かぁ……。五人で住むには狭い気がする。

「ユニカ?」

 そんな事を考えていた所に背後から怪訝そうな声が掛かる。振り向くと、雪豹の獣人らしき男性が一人。片手に大きな魚を引っさげていた。

 ゴツくて顔の見えるユニって感じか。

「ユニのお父さんですか?」

「そうですが……あの、ユニカはどうしたんでしょう?」

「申し遅れました。ユニさんと同じ部活のレーティフィバリスです。そちらはエルリュネット」

「こんにちは!」

 ルネがとびきりの笑顔で手を振る。ここで大方の場合は警戒心が溶ける。場合によってはぐずぐずに溶け崩れる。恐ろしい。わかっててやってるからな。

 ユニのお父さんはまだ若干戸惑っているが、やはり子供の部活仲間と聞けば警戒は緩む。

「すみません。部活で熱を入れ過ぎて、魔力が底を尽きてしまったみたいで」

「そりゃ、ご迷惑を」

「いえ、むしろこちらが申し訳なく……。ユニさんの伸び代が予想以上だったので、ついつい止めるのが遅くなってしまいました」

 ルネと一緒に頭を下げる。何かユニ、絶句して固まってる気配だけど気にしない。

「いやいや、そんな。ああ外で立ち話も何です、狭い我が家ですがどうぞ」

「お邪魔しまーす」

「お邪魔します」

 家の中へ入れてもらうと、だだっ広い部屋が目に入った。壁には色々な道具類と隙間を塞いでいるらしき織物のタペストリーや補修の跡。

 掃除は行き届いているので清潔感はある。

 玄関兼居間兼食堂のようだ。

「ユニ、お部屋は?」

「……ここです」

 おっと、どうやら寝室も兼ねてる?

 部屋の真ん中にテーブルと椅子、部屋の壁際全体にチェストが備え付けられてるけどもしかして……。それ以外だと床……。

「おかえりなさいあなた……とユニカ? どうしたの。それに」

「ユニカの部活仲間のお二人だ。部活を頑張って倒れたらしい」

「あら。まあ。ふふ。元気ねぇ」

 おっとりとした優しそうな獣人の女性。ユニのお母さんだな。

 そう思っていると、何やらバタバタと足音がして俺達が入ってきた扉が開いた。

「お父さんお腹すいたー!」

「見て見て! ベリーこんなに採れたの!」

 わお。想像してたより小さいな。

 ユニの弟妹と思われる子供が二人、元気よく入ってきて、見知らぬ人✕2(もちろん俺達)に動きを止めた。

「わー。美味しそう! 一つ貰って良い?」

 約一名、自分より幼い子供にベリーをねだってるがな!

「わぁ……」

 食い意地の果てしない一名に、弟妹が口をポカンと開けて一拍。ユニ妹の方が先に我に返り、手にしていたベリーの入ったバスケットから一掴み分をそっと捧げ持つ。

「どうぞ!」

「ありがとうー!」

 ホクホク顔でルネはそれを受け取って、一つ摘んで口に入れると美味しさに声を上げた。そして一つ摘んでユニ妹へ。

「お返し。はい、あーん」

 反射的に口を開いたそこへベリーを入れる。

「ぼ、ぼくも!」

「良いよー。はい、あーん」

 チミっ子の心を鷲掴みにしたらしいルネはもう放置で良いか。

「すみません。うちのルネが」

「いやいや、子供達は喜んでいますから。それにユニカにお友達が出来たなんて」

「部活もいつの間に? あ、昨日帰りが遅かったのもそれでなのね? やだ、早く言ってくれれば良いのに。でも良かったわ。ユニカったら全然学校のお友達の話してくれないし、友達いないのかと心配してたのよ」

 ユニ母の言葉の何かしらにダメージを受けたのか、ユニが気まずげに顔を逸らした。友達がいないどころか、いじめられてたもんな。

「ママー。あんね、おねーちゃんがね、面白いのみせてくれるって!」

「みてきていい?」

「あら。何かしら?」

 とりあえず警戒心ゼロで快く送り出すユニ母。

「ルネ、何しようとしてる?」

 一応、何しようとしてるか確認しないとな。

「ん? キラキラな感じでふわふわさせようかなーって」

 ちょっと何言ってるかわかんないよな普通。

「あ、そう。なら、まあ」

「え。ちょ、弟妹達に何かする気ですか」

「あー、大丈夫。いわゆる魔術使った、高い高い、だから」

 ユニが警戒心バリバリだ。無理もない。

 でも、多分これは大丈夫だから。

「心配なら見ていると良いんじゃないかな」

「そうします」

 よほど心配なのか家の外へ追っていくユニ。この落差よ。そして追いかけられる程度には回復したのか早いな。ぐう優秀。

「どうぞ。立ち話も何ですから座って下さいな」

「ではお言葉に甘えて」

 席に着き、ユニ母の出してくれた蜂蜜水を頂く。一枚浮いたレモンの輪切りが良いアクセントだ。

 甘酸っぱくて疲れがとれる。

「美味しいです。ありがとうございます」

「気に入ってくれて良かったわぁ」

 空気もほどよく和んで、自然とユニの話(部活)になる。

「ユニカとは別のクラスなんでしょう?」

「はい。先程のエルリュネット、私達はルネと呼んでいるのですが、ルネがユニカさんに声を掛けまして」

「あらあら」

「私達の部活は人前で歌やダンスをするので、やはり気恥ずかしいようなのですが、ひとまずはお試しでとお願いして仮入部して頂いています」

「なるほど。ユニカには良い経験になりそうだ」

 可哀想に。本人がいたら必死に辞めたいんだと訴えそう。俺は笑顔で話してるけど。

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