第5話 身のほどとは



 アイドルとは愛の偶像である。

 愛という信仰心を一身に浴びる存在である。

 最早信仰している時点で神。ちなみに神とは異なる世界から入ってきた概念と言葉らしい。とにかく何かそういうもの。

 で、俺達はそのアイドルをいる。

「ユニ、リズムから遅れてるぞ」

「頑張れー、ファイトー!」

「ひっ、ぃぃぃっ!」

 壁が鏡張りのレッスンルーム。学園の一室で予約制で生徒なら誰でも使用可能だ。

 そこで俺は椅子に腰掛けてルネ達がするダンス練習を監視している。何故監視ってこうやって指摘とかする役目で見学ではないから。

 可哀想に。もうユニ、汗だく。そりゃ基礎練習とはいえ、やったこと無いのを初日からフルでやらされたらそうなるよな。いや、良く遅れてる程度まで抑えてるよ。偉い。

 かれこれ三時間くらいぶっ続けで踊ってるからな。その前に準備運動の時間が別途あったし。

 怪我しないためにも準備運動は大事。

 やがてダンス練習用のカウントが止まり、ユニがレッスンルームの床に崩れるように沈む。

「むり……む、り……死ぬ」

 だよねー。

「お疲れ様ー。ユニ、大丈夫?」

「…………」

 ダメだろうなぁ。

 でもなぁ……。

「次は歌いながらやるから水分補給とかしっかりね!」

「っ!」

 ユニの顔が絶望に染まってるぽい。前髪長くてわかりにくいけど。仕方なし。

 でもなぁ……。

「それでその次は歌に加えて魔術使いながらやるからね」

「…………」

 ユニ、カタカタ震えて首めっちゃ横に振ってる。

「初日だからコレだけこなせばOKだから頑張ろうね!」

 ああ。目が死んだな。

 頑張れユニ。まだ今日は初日で楽なメニューだし。あと歌と魔術加えたレッスン二時間程度で終わるだろうから。

 そもそも今、ユニがやってるダンスの振り付けはルネのやつだし、明日までにはユニ用の振り付け考えて配置諸々も再構築してやってく事になる。

 ここで挫けてる暇は与えられない。

 じゃないと俺がステージに上げられる。

 頑張って! 俺のために!

 いやいや酷くないよ? だって俺はそれ以外の事で手一杯だし。これ以上はキャパオーバー。俺が潰れる。

 スケジュール管理と曲に関する事は全部やってるし、ルネの手綱できるだけ取ってるし。

 あれ野放しにするほうが被害大きくなるのを抑えてるんだから、これ以上なんて無理無理。

「ルネ、そろそろ再開」

「おっけー!」




「お疲れ様ー」

「ユニ、良く頑張ったな」

「あ、う、あ……うぅ…………」

 おお。あれだけ歌ってまだうめき声出せるとは。中々有望では?

「立てる?」

 床に五体投地して文字通り白く燃え尽きたユニの頭をしゃがんで軽く指でつつく。湯気上がってるけど冷たくなってないから生きてる。

「む、ひゃ、むひゃて、ひゃん、へん」

「うん。何言ってるかわかんない」

「む、……り、で、す」

 ひえぇ、と震えながら白い長い前髪を透かして涙目が訴えてくる。顔を上げられるとは根性あるじゃない。何気に言語の回復も早いじゃん。すこ。

「合格」

 涙目でふるふる首横に振ってもダメだよ。ここまでやれる逸材、逃がす訳ない。

 ようこそ、アホ被害者の会へ。

 身のほどとは誰が決めるのか。

 勿論、他人様だよ。

 アイドルだという身のほどを、信奉者に認めて認識してもらう為に、俺達は俺達自身をプロデュースしてるんだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る