第2話 そのままでいるつもり?
「じゃ、早速口上考えよー!」
「はい!?」
「新顔は早く覚えてもらわなきゃ」
「確かに。イメージが一発でつく挨拶は大事だよな」
「こ、口上って挨拶の、こと?」
ルネが楽屋に設えた長ソファの片側に腰掛け、俺はその隣に同じく座っている。両隣にはそれぞれ一人掛けのソファ。
そして向かいに同じく長ソファ。今そこにはユニが心細そうな雰囲気で腰掛けて縮こまっていた。
「そう! みんながユニのこと一発で覚えるような、すっっっごいのにしようね!」
「ひえ……っいや、いえ、いえ! 待って下さい。そもそも、メンバー、やるなんて一言も」
「えー……。やらないの?」
「や、やらないです」
「ふーん? じゃ、またいじめられて過ごす?」
「そっ……れ、は」
「待て。何の話だ。聞いてないぞ」
やるやらの話になったので聞き流していたが、何か不穏なワードがルネから聞こえてきたので止めてみる。
パスタと似た感じの細い棒クッキーにチョコを掛けたスナック菓子をいつの間にかポリポリしつつ、ルネが口に入れたのと別の、新たな一本をパッケージから引き抜いて魔法の杖か指揮棒の如く振る。
「えー……言ったじゃない。体育館裏から拾ってきたって」
「それだけでわかるか!」
なにそのお約束だから説明いらないよね感。要るよ。報告連絡相談(略してホウレンソウ)大事だろ!
「仕方ないなー。じゃ、説明するね」
「何さも俺がわからないのが原因みたいな雰囲気出してる。お前だろうが原因」
「もー。レフ細かいよー。カルシウム足りないんじゃない?」
「お前がおおざっぱ過ぎるんだよ!」
疲れる。
そんな問答をしていたら、部屋のドアが静かに開いた。
「兄様、お疲れ様です」
「兄様、何のお話しているのですか?」
「リジー、レー」
「兄以外のその他には挨拶なしか双子」
顔を出したのは俺達より一学年下の少年二人。ルネの弟達だ。
顔の造りはルネと違い二人とも父親似。肌の色も褐色で翼もない。
ルネにリジーと呼ばれたのが『ヴィリジアス』で、月のように白い短髪に左右が赤と青のオッドアイ。
レーと呼ばれたのが『ヴァンレーダル』でこちらはルネと同じ金の短髪、リジーと同じくオッドアイだ。
双子だけあってよく似ている。正直、カラーリングが違って良かった。制服の着方も同じだから時々それでも間違えそうになる。
「レフ。いたの」
「兄様の光りが眩しくて気づかなかった。ごめんね」
「お前らの兄貴は発光物か? どっちも結局言ってること同じじゃねーか!」
「まあまあ。ボクが光り輝かんばかりに可愛いのは事実」
「ちょっと黙ってろ」
チョコ菓子をルネの口に押し込めて黙らせる。食ってる間は静かだからな。
「こいつはともかく、一番上のお兄さんはいつも何て言ってる?」
「……」
「……」
双子が互いに目を見合わせる。それからペコリと頭を軽く下げた。
「ごめんなさい。こんにちは、レフ」
「こんにちは」
「よし」
ルネの上には一人お兄さんがいる。身体がよわ……と言うか心因性の胃痛持ちで、薬が手放せないが中身は至って普通で穏やかな人。
そう。中身がまとも。
双子はルネの方が歳が近くてちょっとだけルネが面倒みてた時間が多かったからか、一番ルネになついているが、ルネも昔はお兄さんにベッタリだったから、必然的にルネを見習うと一番上のお兄さんの言うことをきく。ほんと良心。
「ところで」
「それ、なに?」
双子の目がソファで小さくなっているユニに向く。
「ひっ! あ。えと、あの」
ユニよ。気持ちはわかるが「ひっ!」は我慢だ。
「ルネが拉致してきた新メンバーだ」
「人聞き悪いー。助けたって言ってよ」
そうだ話が逸れてまだ聞けてなかったな。
「ここに来る途中で外を見たら、メンバーに良さげな子が体育館の裏で殴ったり蹴られたりしてるの見つけて、とりあえず拾ってきた。それがユニ。以上!」
簡潔でわかりやすいな! けど待て。
「お前、ケガは?」
「するわけないじゃない。ボクのこの可愛い顔に傷でもついたら世界の損失だよ?」
ん。聞いた俺がバカだった。問題なし。
「話戻すけどー、ユニもその記章からして二年でしょ? あと二年、耐えて過ごすつもり?」
学園は初等部から大学部まであるが、初等部と中等部は四年制。見た目と実年齢が一致するとは限らない種族がわんさかいるし、いつどの課程から始めても良いから年齢での区分はしてない。
現にルネの兄貴は現在高等部から通い始めた。俺とルネは初等部からで、ブラコン双子は中等部から。
「その、つもり、だけど……」
「ふぅん。じゃあ、せいぜい死なないように頑張って?」
この世界、あらゆる意味で力があるものが正義。
力がないものは何をされても、殺されても何ら不思議はない。
勿論、逆に仇討ちも復讐もありだ。やれるのならば。つまり殺すなら殺される事も覚悟すれば良いだけ。
「そう毎回助けなんて入らないぞー。ルネも次は見てもスルーするだろうし」
「まあ、そうだよね。だってメンバーにならないなら、ボクが助ける必要ないし」
加えて言うなら、ユニ自身が耐えるつもりって言っちゃったから余計。
長く伸びて顔を隠す前髪の奥で、マロ眉をハの字にして泣きそうなユニの顔が見えたけど、こればっかりはどうしようもない。
「ほんとに耐えられるのー?」
「……だ、って」
ルネの問いにユニの声がついに震え始める。
お菓子をもしゃりながらルネは脚を組み、膝の上で拳を握るユニを眺めた。
うーん。これ、何か俺らがいじめてるみたいじゃん。仕方ねーなー。
「とりあえず、お試し加入してみれば?」
「お試し……」
「ほら、そもそもついてこれないかも知れないし」
ダンスや歌も、結構練習きつい。加入しても練習についてこれなきゃ、結局メンバーになれないんだから、やらないと同じになる。
「やれたらそれこそメンバーになって、あと二年を少なくとも今より快適に過ごせるよ? うちのメンバーになれば、暴力ふるわれることはまず無い」
どころか、本当にメンバーって認められたらいじめようとした奴らがむしろ身の危険あるだろう。
力は何も暴力だけじゃない。
人気や魅力も力だ。
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