第2話


「ゴトー。ゴトーよ」


 パクリダは客室に入って、客人のゴトーに泣きついた。


「なんだ、パクリダ」

「お前、少しは我を敬わんか。我、皇帝ぞ?」

「俺にとって皇帝陛下とはただ一人。父上のみだ!」

「でもお前、父上が亡命するとき置いてかれちゃったんでしょ」

「そうだ。だから仕方なくここに身を寄せている。しかしアキラ家に属するものとして、宿敵である貴様らトーサク家と馴れ合うつもりはない!」

「あんまり馬鹿言ってると本国に送り返すからね」


 パクリダは忠告した。

 ゴトーは、ドンドコ帝国の隣国であり同盟国でもあるウキウキ帝国の皇太子である。しかしウキウキ帝国は早々と敗戦を認め、ドンドコ帝国を見捨てて戦線を離脱してしまった。そのせいで調子に乗った敵国のキラキラ連合王国軍が、ウキウキ帝国を治めるアキラ家を退位させてしまったのだ。ゴトーはその関係でパクリダのもとにいる。


「そんなことよりゴトーよ。聞いてくれ。最近は誰も我の言うことを聞いてくれんのだ。軍の奴らも、議会の奴らも、我のことなど知らんぷりなのだ」

「はっはっは。それはお前の……あー……人望? とやらが、無いということだな!」

「そんなはずはない。そんなはずはないのだが……みんな帝政を倒したがっている。我をやめさせたがっているのだ!」


 特に議会の連中に皇帝派はほとんどいない。この戦争を機に帝国を壊そうと企んでいる奴ばかりだ。何でも敵の和平交渉の内容に、帝政の廃止が盛り込まれているらしい。開かれたことだ。

 軍は軍で、しゃにむに戦争に向かっては玉砕を繰り返している。帝政を保ったまま平和的に停戦をしてはどうかとパクリダが言っても、聞きやしない。


「我の味方はゴトーだけだ……」

「俺はお前の味方じゃないぞ!」

「じゃあ何なの」

「え? あー……ちょっと助けてもらっているだけだ!」

「もう無茶苦茶。我、泣いちゃう」


 そこに慌ただしく入ってきた者がある。

 軍を一任されてしまい、今ではパクリダを無視してばかりいるケーキである。


「パクリダ様、ここにいらっしゃいましたか。大変です!」

「もうなんなの。聞きたくないよ」

「ドンドコ帝国の北海岸の軍港で、兵士たちによる反乱が発生しました!」


 パクリダはがっくりと肩を落とした。


「そんなの適当に鎮圧しておきなさい」

「それがものすごい勢いで、とても手に負えません。どうしましょう、パクリダ様」

「こういう時だけ我を頼るのやめてくんない? どうせ誰も言うこと聞かないから、政府の人間でも派遣しておいてよ。我はもう知らないよ」

「承知しました!」


 ケーキはばたばたと出ていった。

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