みんなでつくろうワイワイ共和国
白里りこ
第1話
ドンドコ帝国は敗戦の危機に瀕していた。
「やってらんねえよ〜。あ〜」
ドンドコ軍に属するしがない歩兵のムネミツは、西部戦線でザックザックと塹壕を掘りながらブツクサ言った。戦線が後退したから新しく塹壕を掘らねばならない。だがこんな負け戦、もう嫌気がさしていた。負けるのが分かっているのにいつまでもザックザックやってられるか。
「どうせなら勝つ戦をしてえよなあ。敵をバンバン打ち倒して前に進みたい。それなのにこれじゃあ、実家に帰って土を耕している方がましってもんだぜ」
おい、と仲間がムネミツを小突いた。
何かと顔を上げれば、軍のお偉いさんが戦場の視察に来ている。
ケーキ大佐だ。
ムネミツは慌てて黙った。愚痴が聞こえてしまっただろうか。
ケーキは記録用紙に何かすらすらと書き付けると、ムネミツの頭上を通り過ぎて、向こうの方へと去っていった。
***
「──とまあ、こんなふうに、厭戦気分が蔓延してますね」
ケーキはドンドコ皇帝パクリダの前で報告した。
「うーむ」
パクリダは玉座の上で唸った。
「うーむ、うむうむ。……ミナシ。どう思う」
「私ですかぁ? そうですねぇ」
軍の中でも工作員として特殊な行動をしているミナシは、パクリダに重宝されていた。
「カロ参謀長を辞めさせて、軍部独裁をやめたらどうです?」
そんなことをミナシは笑顔で言い出す。
「もう戦争は負けですよ、負け。カロ参謀長は徹底抗戦を主張しているものの、作戦に失敗した。これ以上彼の好きにさせては、ドンドコ帝国が丸ごと崩壊しかねませんからねぇ」
「うーむ。しかしあのカロを辞めさせるのは……」
「それができるのはあなただけでしょ? パクリダ様」
「それはそうだが……」
そこへ、バーンと扉が開いて、ずかずかと会議の場に入ってきた者がある。カロ参謀長その人だった。
「構いませんよ」
カロは言った。
「パクリダ皇帝の命により、私は参謀長をやめます」
ケーキ大佐はびっくりしてしまった。
「ええっ。カロ様、それじゃあ戦争はどうなります」
「お前に任せた、ケーキ」
「えっ」
「絶対に戦争に勝てよ」
「えっえっ」
「では私はこれで。ちょっくら亡命の準備をして参ります。失礼」
カロは入ってきた時と同じく突然に去っていった。
「……」
その場には沈黙が降りた。
ケーキはおろおろとしているばかり。パクリダは難しい顔をしている。ミナシはそんな二人を見て、「ふへっ」と笑った。
この日の夜遅く、カロは本当にドンドコ帝国から姿を消した。
軍部独裁は終了し、戦争の指揮権はケーキに渡った。
そして政治の指揮権は、議会に渡ったのである。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます