ぐちゃぐちゃ
金曜日はサボりの日。
そう決めたのが、まさかこんなに続くとは。
「春と夏と秋と冬なんだから、まぁそりゃ春夏秋冬と並べたくなるよな」
母校からの下校ルートをちょいと外れた位置にあるショッピングモール。
その北の端、ゲームセンター隣にある本屋にて、僕はそうひとりごちた。
少し準備を始めていた仕事がご破算になった。
それなりに気合をいれて進めていただけに、落ち込んだ。とっても。
日が沈んだころにようやく、これではいかん、と、
気持ちをリセットすべく日課のサボリでいつもの書店へ出てはみたものの。
よく読む文庫の棚、懐かしい本の並び一つにも目くじらを立ててしまうほどに、
どうやら僕はやられてしまっているらしい。
春夏秋冬。春と夏と秋と冬。
それぞれの季節を題材にした4冊からなる学園モノのシリーズ。
いま目の前にあるそれらは春夏秋冬、その順に陳列されているが、
実際のところ刊行順に並べるならば秋冬春夏とするのが正しいところだ。
まぁ紛らわしいのは理解できる。
が、しかし、背表紙に振られたNoもまるっと無視してしまえるのはいかがなものか。
しっかり並べ直そうという気概は買うが。
まるで、これが正解です!と言わんばかりの堂々とした陳列ぶりは、
今のつかれた僕には毒だった。
春夏秋冬。芽吹いて、茂って、実って、枯れる。
そんな当たり前を、純粋に遂行できる人たちを見るのは。ちょっと眩しい。
「おりゃ」
「ッひぁっ!」
突然首筋になにやら冷たいモノが当てられ、眼前がちかちかする。
振り返ると、サボリ仲間の
「はい、きぃちゃんおみやげぇ」
「あ、ありがと……」
そう言って渡されたのは、エナジードリンク、レッドブル。
僕が本屋でサボるように、彼女はゲームセンターでサボるのを週に一度の日課にしている。
とりわけプライズゲームをよく好んで遊んでいた。
「え、何、最近のプライズゲームってエナドリまで景品になってんの?」
「そだよぉ? 知らなかった?」
「ひえ~、何か嫌だなぁ、ゲームセンターまで来て労働の象徴に出会うの」
「あはは。きぃちゃんよく飲んでるもんねぇ。毎日頑張ってて、えらいえらい」
「ちょ、この年で頭なでられんのハズいんだけど」
「いーのっ」
そう言って、撫でを続行する歩。
幸い、奥まった位置に居たためか、周囲に人は居なかったので、
きっと赤くなっているであろう耳を、誰にも晒すことなく済みそうだった。
「んでぇ? 今日は何読んでたの?」
「え? あぁ、これ、秋冬春夏のやつ」
「えぇ~なつかしぃ~! きぃちゃん追っかけて読んだなぁ」
「あー、そんなコトもあったっけか?」
「あったよぅ、最初全っ然意味わかんなくて頑張って読んだわ」
「ふーん? そんなに難しい本だった?」
歩は日常的にこそ読書しないものの、読解力は並以上のはずだけれども。
「だってほら、春夏秋冬の順番で読んだじゃん? 私達」
三巻からじゃあわかんなくて当然だよねぇ、とケラケラ笑う歩を見て、
つられて僕も笑ってしまった。
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