深夜の散歩で起きた出来事
平日はあまり寝付けない。
そうなったのは、中学に上がってすぐのことだ。
それでもいつもは、じっと耐えるように布団の中で大人しくしているのだけれど。
どうしても眠れない夜は、散歩に出ることにしていた。
部屋着の上からカーディガンを羽織り、外に出る。
両親に気づかれないよう静かに鍵を閉めると、
目的地である公園へと足を向ける。
深夜の住宅街。
新開発されたその一区画は、しっかりと街灯が整備されており、
深夜の静けさに似合わず、道はこうこうと明るかった。
5分ほど歩くと、何事もなく、小さな公園へとたどり着いた。
住宅街に合わせてオープンしたばかりの公園も、街灯設備はバッチリで、
入り口からでも、人っ子一人いないことが見て取れた。
私は手近なベンチに腰掛けると、ほう、と一息ついた。
春先の夜はまだ寒く、カーディガンだけで出たのは間違いだったかもしれない。
とはいえ、皆寝静まった静かな夜に、しまい込んでしまった冬物アウターをゴソゴソと探すのは、気づいてくださいと言っているようなもので、それはさすがに避けたいところだ。
思春期真っ只中な娘でも、良い両親をイタズラに心配させたくはない。
それがたとえ、私を全く愛してくれていない人たちだったとしても。
勘違いしてほしくはないが、愛していない、というのは、
虐待とかそういうイケナイ事実の存在をほのめかすものではない。
両親は、本当に真っ当に、良い両親である。
物心ついてこちら、衣食住に困ったことは一度もなく、
共働きというのに、授業参観などのイベントごとにも、欠かさず出席してくれている。
ただ、それらの行為に愛が伴っていないというだけで。
じゃあ具体的にどういうところに愛が無いと感じるのか? と聞かれると困ってしまう。
面と向かって愛を囁かれた記憶は確かに無いが、しかし、そんなものはなくても愛を感じることはあるだろう。
行為だけ見れば、娘のイベントごとに皆勤賞というだけでも、十分な愛を見出せるのではないだろうか。
しかし、その実、そこに愛は一切ないのだ。少なくとも、私にとっては。
きちんとした両親から愛されていない。
それはきっと誰に言っても伝わらない、贅沢な悩みなのだろう。
誰より、私自身がそう思う。
だから私は、せめて、きちんと愛されているような子供を演じないといけないのだ。
愛はなくても、恩はあるから。
愛してるの代わりに、ありがとうをパンパンに詰めて、張り詰めて。
いつしかパチンと弾けてしまうのではないかという恐怖を隠して。
そんなことを、とりとめなく考えているうちに、どれくらい経ったのだろうか。
すっかり冷えた体が、いい頃合いに疲労を伝えてきた。
このままここで寝てしまってもいいかな、なんて思ったけれど、
そんなことは、やっぱり出来ないのだった。
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