8話 収束と思考

 ハーマン・ポールが倒れた瞬間にホタルはその姿が母と重なった。希望の国という偽りの法に犯されたあの時の後悔となんとも言えない絶望感が襲って来る。

 ボーデンは息を切らせていたが、それよりも嬉しさが優っていた。

「よくやったぞ、ホタル。ようやく終わった。君たちもこれ以上まだやるつもりか?」

 周りの生きている希望の国の兵士たちはハーマンが倒れた時点で戦意喪失していた。

「に、逃げるぞ。」

 希望の国の兵士は階段を下って行った。


 ソフィアは父が倒れる様子をカーテンの影から母のエラ・ポールと共に見ていた。そして矢を放った主を見た時、少し納得してしまった。エラがカーテンを開けて走ってハーマンの下まで駆け寄っていた。そこをザルパーク国の革命派に囲まれ、手を挙げていた。ソフィアもカーテンから出ざるを得ない状況になった。

「私は降伏します。だから、母に手を出すのは辞めて下さい。」ソフィアはそう言ってホタルの方を見た。ホタル何か考えているのかさっきからずっと下を向いている。敵の最大勢力を倒したというのにどこか悲しそうだった。


「よし、無駄な抵抗はするなよ。既に別部隊がこの城に火を付けている。おとなしく、お縄についてもらおうか。」そう言ってボーデンは勝ち誇った。

 他の革命派のメンバーはエラとソフィアを縄にかけた。

 その時ホタルが皆に向かって叫んだ。

「ちょっと待って。これじゃザルパーク国と希望の国の因縁は無くならないよ。」

 感情の籠ったその声にその場の全員が動きを止めた。


「ホタル、言いたいことは分かるがこれが戦いだよ。勝った方が負けた方の権力を奪い去る。正しいやり方さ。」ボーデンはホタルをなだめるようにして言った。「そうじゃないよ、ボーデンおじさん。誰かを殺すことで誰かが幸せになる。そんな世の中はおかしいよ。僕が作りたいのはただ皆が幸福に暮らせる世界。それは希望の国もザルパーク国も関係がない。」

「そうなれば良いんだけどな。それは幻想に過ぎないんだよ。現にポール家の二人は捕まった訳だが、俺たちがやらなくても誰かがこれをやっていただろう。」

「なら、僕が幻想を現実に変えてやる。」

 そう言ってホタルはエラとソファアの所まで歩み寄り縄を剣で切った。

「何をするつもりだ。」ボーデンは聞いた。

 ホタルは剣を首元に持っていった。


 ソフィアはホタルが自らの首に剣を当てた事に驚いた。相当の覚悟がいるはずだった。

「僕はこれから自殺する。ハーマンを殺した事でザルパーク国の苦しんでいる人達を開放できた。でもソフィア達、希望の国も僕の様に殺した国を恨み同じ事をすることになる。だがら今ここで憎しみの連鎖を断ち切る。僕が死んだ後、きっとザルパーク国も希望の国も幸福に暮らせる様に願う。」

 そう言うとホタルは剣を振り下ろそうとした。ボーデンや他の革命派はホタルの気迫ある言葉に押されて呆然としていた。

 近くにいたソフィアだけが唯一ホタルのことを止めに行った。横から思いっきりタックルし、同時に剣を握っている腕を掴んだ。

 ホタルはソフィアの勢いに押されて地面に叩きつけられた。ソフィアは覆い被さるようにして上に乗った。

「何を考えてるのよホタル。自殺しても悲しむ人が出るからそんなの意味ないわよ。」

「ごめんソフィア。でも他に方法が…。」

「あたしがポール家の権限を使って希望の国をザルパーク国から撤退させるわ。それから後のことを考えましょう。」

 ソフィアは涙で視界がぼやけていた。この時ソフィアは人間は大人も子供も決して合理的な生き物ではないと知るのことになった。悔しかった。

 

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