第2話 春休みの悩み

 平和だった僕の日常が突然音を立てて崩れていったのだが、僕の家に露出癖のある三人のいとこが住むことになるなんて聞いていなかった。

 両親に言わせると、僕は受験勉強に真剣に向き合っていたので余計な情報を頭に入れたく無さそうだったので言わなかったというのだが、そんなのは今の状況を招いた理由にはならない。

 合格した自分が言うのもなんだが、大紅団扇大学は日本国内でも屈指の名門大学である。幼稚園から大学院まであるのだが、そのほとんどが内部進学のため僕のように外部受験で合格する生徒はほとんどいないのだ。その中でも大学は比較的外部生も受け入れてはいるようなのだが、高校はそこまで外部生の割合は多くなく、中学にいたってはクラスに一人いれば多いと言われている。その理由として、他の大学付属小学校では習わない語学系の科目がネックになっていると言われている。

 そう考えると、三女の真弓が一番凄い事をやっていることになるのだが、あまり頭がいい印象というものは持っていなかった。上の二人に比べて何をやるにも控えめで大人しい子ではあったのだが、小学校低学年であるというのに僕に対して何度もパンツをチラ見せしてきたのを思い出した。それも、姉二人も気が付かないようなタイミングで僕だけに見えるようにジーンズのファスナーを開けてその部分を開放していたりしたのだ。全く末恐ろしい小学生である。

 次に、次女の陽香であるが、彼女は社交的な面があり誰とでも仲良くなれるようなタイプだった。僕は彼女とは反対で内気で引っ込み思案で人の目を見て話すのが苦手だった。今思えば、彼女たちが僕に下着を見せてくるようになったのも陽香のせいと言っても過言ではないはずだ。親戚が集まっている中でも僕は誰とも話すことは無く一人で本を読んでいたのだが、それを横で見ていた陽香のスカートの中が不意に見えた事が全ての始まりだったように思う。パンツを見られているという事に気が付いた陽香の嬉しそうな顔は今でも忘れることは出来ないのだが、なぜか次に会った時は陽香だけではなく真弓も沙緒莉姉さんも僕に下着を見せてくるようになったのだった。

 最後に、長女の沙緒莉であるが、彼女は年上で中学生の時からスタイルも良かったので姉妹の中でも目立つ存在だった。学校でもかなりモテたらしいのだが浮いた話一つなかったし、勉強だけではなく運動も出来て日常生活においても問題行動などはせず模範的な生徒として表彰されることもあったそうだ。それなのに、彼女は僕の前に立って自らスカートをめくって見せたり、シャツのボタンを上だけ止めてあとは全部外して見せてくるような人だった。あまりにも直接的に行動されることでそれは普通の事なのではないかと一瞬思ってしまうほどだったのだが、冷静になって考えれ見ると僕は一人で恥ずかしくなって顔が真っ赤になっているのもわかるくらい熱くなってしまっていた。

 そんな彼女たちがどうして僕の家に住むことになったのかというと、三人がそれぞれ大学と高校と中学の受験に成功したからなのだ。だからと言って、僕の家に一緒に住むのではなく家族でどこかに家を借りて住めばいいのにと思ったのだが、彼女たちの両親が学者であって春からイギリスに行くことが決まっていたのもあって女子三人で暮らすよりも部屋が余っているうちで暮らした方が安心だという結論に至ったらしい。確かに、二階に使っていない部屋がいくつかあるのは事実なのだが、それはそれで問題があると思うのだが。ちなみに、僕の両親も彼女たちの両親もなぜか僕の事を信頼しているようで先ほど電話口でも彼女たちの事をよろしく頼むと言われてしまった。


 いつまでもリビングでボーっとしているわけにもいかないと思い、僕は自分の制服を持って部屋に戻ろうとしたのだが、僕が階段を上がるよりも先に真弓が階段を駆け上がっていった。僕は真弓が履いているのがスカートではなかったので油断していたのだが、うえで待っている真弓を見上げると、サイズの合っていない大きいショートパンツの隙間から黄色い布が見え隠れしているのを見てしまった。


「昌兄ちゃんの部屋ってどこなのかな。真弓は昌兄ちゃんの部屋の隣が良いな」

「部屋ってまだ決めてないの?」

「うん、だってまだここに来たばっかりだし、二階に上がるのも初めてだからね。お姉ちゃんたちは前に遊びに来たことあるみたいだけど、真弓はその時の事覚えてなかったし、ずっとお父さんの隣にいたって言われたからね」

「そうだったかもね。真弓はお父さんが大好きで離れなかったもんね。そうだ、真弓は昌晃の部屋の隣じゃなくておじさんの部屋の隣の部屋にしたらいいんじゃない?」

「なんでだよ。そんな事を言う陽香お姉ちゃんがそうすればいいじゃない」

「やだもん。私が昌晃の隣の部屋を使うからね。同じ高校に通うことになるんだし、勉強の事とかですぐに連絡取れるようにしておいた方がいいと思うからね」

「すぐにって、ちょっと歩けば行けるじゃん。陽香お姉ちゃんは年上なんだからこんな時は我慢するのも大事だと思うよ」

「まあまあ、二人とも落ち着いて。昌晃君の部屋の隣を陽香と真弓のどっちかが使うとして、そうじゃない方は昌晃君の部屋の正面の部屋を使えばいいんじゃないかな」

「え、沙緒莉お姉ちゃんは昌兄ちゃんの部屋の隣じゃなくていいの?」

「ええ、二人がそうしたいって言うなら私は譲るわよ」

「お姉ちゃんがそんなこと言うなんて何か変じゃない?」

「確かに、沙緒莉お姉ちゃんがこんなにあっさりと譲ってくれるなんて絶対におかしいよ」

「そんなに疑うんだったら、三人で勝負して決めようか?」

「勝負って何をするの?」

「そうね、昌晃君が一番好きだと思うパンツを見せるってのはどうかな?」

「ちょっと、何言ってるのよ。そんな恥ずかしい真似出来るわけないじゃない」

「そうだよ。陽香お姉ちゃんの言う通りで、そんな事をするのは恥ずかしくて出来ないよ」

「じゃあ、どっちが昌晃君の隣の部屋を使うか決めたら教えてちょうだいね。私はそれまで二人が選ばなかった部屋で待ってることにするからね」


 二人を説得した沙緒莉姉さんはごく自然に何の違和感もない動きで僕の部屋に入っていった。二人は気が付いていないのだろうが、なぜか沙緒莉姉さんは僕の部屋を知っていて何のためらいもなく部屋の中へと入っていったのだ。ずっと言い合いをしている二人を横目に僕はいったい何をするのが正しいのかわからずにいたのだが、今は沙緒莉姉さんを僕の部屋から追い出すことが先決だと思ってノックもせずにドアを開けてしまった。


「もう、いきなりドアを開けるなんてダメだよ。次からはノックしてからにするんだよ」


 沙緒莉姉さんはなぜか上下とも下着姿になっていたのだが、あまりにも堂々としたその姿に僕は自分が間違っているのではないかという勘違いをしてしまった。いったんドアを閉めてから、今度はノックをして返事を待ってみることにした。

「ちょっと待っててね」

 という声が聞こえてしばらく待っていると、中から返事が返ってきた。

「どうぞ」

 僕は恐る恐ると言った感じでゆっくりドアを開けていた。自分の部屋に入るのにこれほど緊張したことは過去にもないのだが、僕の緊張とは裏腹にそこにはちゃんと服を着て僕の椅子に座っている沙緒莉姉さんがいた。僕は沙緒莉姉さんが服を着ていることに安堵してしまったのだが、どうしてそこに座っているのかが気になってしまった。


「あの、沙緒莉姉さんはあっちの部屋を使うんじゃないの?」

「あっちの部屋はちょっと階段から遠いのが気になるのよね。それに、ここの方が遊べそうなものがいっぱいあって退屈しなそうだしね。あ、もしかしてここって昌晃君が使ってるのかな?」

「そうだけど。だからさ、この部屋は僕の部屋なんであっちの空いている部屋を使ってもらってもいいかな?」

「うーん、あっちの部屋は何となく違うなって思うんだよね。だからさ、この部屋を二人で一緒に使う事にしようか。その方がいいと思うけどな」


 僕はなんて返事をしていいかわからずに困っていると、勢いよくドアが開いて陽香と真弓が僕の部屋へと入ってきた。普段の二人からは想像もつかないような威圧感に気圧されてしまったのだが、その矛先は僕ではなく沙緒莉姉さんだった。


「ちょっとお姉ちゃん。何がしたいのかわからないけどもう部屋は決まったからね。私は昌晃の正面の部屋で真弓は昌晃の隣の部屋よ。お姉ちゃんはあっちの広い部屋を使って位から、昌晃の部屋から出て行ってよ」

「そうだよ沙緒莉お姉ちゃん。昌兄ちゃんの家でお世話になるんだから、三人で決めたルールは守らないとダメだからね」

「はいはい、そうだったね。じゃあ、私も冗談はこれくらいにして自分の部屋を見に行ってこようかな。あ、部屋に来る時はちゃんとノックしないとダメだからね」


 意外とすんなりと決まった部屋割りではあったが、これから何かが起こるはずなんて無いと信じることしか出来ない僕は平和に暮らしていけるのだろうか。


 あれ、真弓の言っていた三人で決めたルールって何だろう?

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