春から一緒に暮らすことになったいとこたちは露出癖があるせいで僕に色々と見せてくる

釧路太郎

始まりの春休み編

第1話 新生活に向けたスタート

 高校入学を一週間後に控えたその日に僕の人生において一番大きな事件が起こった。年頃の健全な男子であればとても羨ましいと思うのかもしれないが、僕にとっては面倒ごとが増えただけで良い事なんて一つもないのだ。何せ、見た目と頭と外面がとても良いいとこは顔を合わせれば必ずと言っていいほど僕に対して嫌がらせをやってくるのだ。もちろん、僕はその嫌がらせに対して何度も抗議したし大人たちにも被害を訴えようと思ったのだが、僕が受けている嫌がらせを正直に言ったところで誰も信じないだろう。何より、僕のいう事なんて誰も信じてくれないのだ。実の親ですら僕の事よりもいとこたちの事を信じているのだから。

 その嫌がらせの内容というのは、僕に対して下着を見せてくるというものだ。もちろん、その辺に適当に置いている物ではなく、自らが着用している状態で見せてくるのだ。僕にだけ見えるように正面で体育座りをしてみせてきたこともあったし、僕の側でしゃがんで胸元を見せてきたりしたこともあった。そんな偶然が何年も続いていて、僕以外の人に対しては絶対にそう言う事はしていないと知った時は、僕に対する嫌がらせなのだろうと思ってしまった。その理由としては、僕に下着を見た後に目が合うと必ずみんなニヤニヤとしているからだ。

 こんな話は誰にしても信じてもらえないと思うし、信じてくれたとしてもただ羨ましがられるだけだというのはわかっていた。わかっているからこそ、僕はその話を誰もすることは無かった。

 幸か不幸かわからないが、僕は中学一年の夏から難関私立高校を受験することを決めていたので親戚付き合いもせずに受験勉強に明け暮れる日々を過ごしていた。勉強はそこまで出来る方ではなかったのだけれど、諦めずにコツコツと積み重ねていった結果、僕はその高校に無事合格することが出来た。

 僕の合格祝いが行われることになったので身構えてはいたのだけれど、その場にはいとこは誰も来ていなかったのだ。僕が物心ついてから初めてリラックスして親戚と過ごすことが出来たのだった。


 今日は何故か早く目が覚めてしまった。まだ起きる予定の時間ではなかったのだけれど、家の中がやたらと騒々しいので目が覚めてしまったようだ。パジャマのまま部屋から出ると隣の部屋で母親が自分の荷物をまとめていた。


「あれ、朝から荷物をまとめてどうしたの?」

「起こしちゃってごめんね。朝ご飯は用意してないんで適当に食べててね」

「もしかして、父さんと喧嘩して出ていくの?」

「何言っているのよ。そんなわけないでしょ」

「でも、なんで急に荷物なんてまとめてるの?」

「あんたに言わなかったっけ。今日からこの部屋を沙緒莉お姉ちゃんに貸すことになってるでしょ」

「え、なんで?」

「なんでって、春から大学に通うために決まってるでしょ」

「ここから通うって、この辺に大学なんてあったっけ?」

「ホント何言ってるのこの子は。あんたの通う高校って大学の付属でしょ。その大学よ」

「それじゃあ、沙緒莉姉ちゃんは高校の先輩だったって事?」

「高校は違うところよ。でも凄いわよね。あんたがあの高校に受かったってのも凄いことだけど、一般入試であの大学に受かるってのはそれ以上に凄いことだと思うわよね」

「いや、それは凄いけどさ。なんでこの家から通うことになってるのさ」

「なんでって、家族みんなで暮らすことが出来ないからでしょ。それに、ウチは使ってない部屋が結構あるから大丈夫だし」

「いやいや、そんなことがあるなら僕にもちゃんと教えてよ」

「何言ってるのよ。あんたの誕生日の日に伝えたわよ。勉強に集中するのも良い事だけど、親の言う事もちゃんと聞いておかないからそうなるのよ」

「でもさ、それだったらなんでもっと早くから準備してなかったの?」

「色々あるのよ。細かいことなんて気にしなくていいからね。それと、お父さんは迎えに行くことになってるから制服はあんたが自分で取りに行きなさいよ。お金は払ってあるからこの封筒に入ってる予約票をお店の人に渡すのよ。いい、もう子供じゃないんだから一人で行けるわよね」

「うん、大丈夫だけど、バス賃ちょうだい」


 そう言えば、昨日の夜からなんだから両親がソワソワしているなと思っていたんだよな。制服を取りに行くくらいしか用事が無いと思ってたんだけど、いとこの沙緒莉姉ちゃんが隣の部屋で暮らすってのは中々に辛いものがあるな。でも、大学生って事は大人なわけだし今まで見たいにチラリと見せてくることなんて無いんだろうな。僕ももう子供じゃないんだし、そんなことしてくるはずも無いよな。

 そんな事をぼんやりと考えながら朝食をとっていると、いつの間にか父さんが出かけていったようだ。車のエンジン音が少しずつ遠くなっているのを聞きながら僕は洗い物を済ませていた。

 さて、ちょっと早いけど制服を取りに行ってこようかなと思って着替えを済ませると、母さんからバス賃千円と制服の予約票の入った封筒を手渡された。


「余ったお金はとっといていいからちゃんと行ってくるのよ。寄り道をするつもりなら制服を受け取る前にしておきなさいよ」

「どこにも用事なんてないけど、何かしたくなったらそうするよ」

「制服を着る前に汚したりしたらダメだからね」

「そんなことしないって」


 家から少し離れた場所にあるバス停からデパートに向かっていったのだが、途中で何人かのクラスメートの姿を見かけた。来週からはもう関りもなくなったのだなと思ってはいたのだけれど、不思議とそれ以外に何も思うところは無かった。

 デパートについて思ったのだが、僕以外に一人でここに来ている人はいなかった。少なくとも、制服を一人で取りに来ている人はいなかったのだ。

 予約票の入った封筒をそのまま渡してしまった後で気付いたのだが、封筒ごと渡さないで中身だけ渡せばよかったのではないかと思っていた。出来上がった制服を一人で待っているというのも気まずい事ではあったのだが、封筒ごと渡してしまったこともそれと同じくらい気まずく感じてしまっていた。もっとも、店員さんからしてみたらそんな事は気にするような事でもないのかもしれないのだが、僕は初めての経験だったのでとても恥ずかしく感じてしまっていた。


「お待たせいたしました。大紅団扇大学付属高校の男子制服冬服一式と女性制服冬服一式と大紅団扇大学付属中学の女子制服冬服一式ですね。夏服は五月末日のお渡しとなりますのでこちらの控えをお持ちくださいね」

「あの、間違ってますよ。僕が受け取りに来たのは男子制服だけですけど」

「齋藤昌晃様でよろしいですよね?」

「そうですけど、僕が取りに来たのは男子の制服だけだと思うんですけど」

「ですが、お預かりした封筒の中には大紅団扇大学付属高校の女子と大紅団扇大学付属中学の女子の制服の予約受取票も入っておりましたよ?」

「ちょっと待ってくださいね」


 僕は何が何だかわからないので母さんに電話をかけたのだが、その返事は

「間違ってないから受け取ってさっさと帰ってこい」

 というものだった。


 僕は何となく腑に落ちなかったのだがそれらを受け取ってバスを待っていた。僕はこの時にあえて何も考えていなかったんだと思う。沙緒莉姉ちゃんが同じ家で棲むというだけでも嫌なのに、同い年の陽香と年下の真弓も同じ家で棲むことは絶望でしかなかった。いや、きっとそれは僕の思い過ごしのはずだ。僕がこの制服を取りに行ったのだって近所の誰かのやつをついでに取りに行っただけだろうし、いとこが三人とも家で暮らすなんて普通に考えてありえない話だ。


 制服を三着分もって無事に帰宅したわけだが、家には誰もいなかった。車が無いので父さんが帰って来ていないことは外からでもわかったのだが、母さんもどこかへ出かけているようだった。夕飯の買い出しにでも行っているのかなと思って待っていると、聞き覚えのあるエンジン音が近付いてきた。僕はリビングにいるので車の姿は見えないのだが、父さんが帰ってきたという事はわかっていた。つまり、沙緒莉姉ちゃんも一緒に来たということだ。


「おーい、昌晃。荷物があるから手伝ってくれ」


 玄関から聞こえてくる父さんの声に応えてから向かうと、そこには僕の知っている沙緒莉姉さんよりも大人っぽくなった沙緒莉姉さんが立っていた。


「久しぶりだね。これからしばらくの間お世話になります」


 大人っぽくなった沙緒莉姉さんはそう言って頭を下げると、首元が緩くなっている服から以前より大きくなっている谷間を見せてきた。そのまま沙緒莉姉さんが頭をあげた時に目があったのだが、その表情は以前と変わらず僕をあざ笑うかのような感じであった。


「お姉ちゃん先に行くのズルいよ」

「そうだよ。私も昌君に一緒に挨拶したかったのに」


 こうして、僕の新生活は始まっていったのだった。

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