怪談東京物語(尾道てのひら怪談佳作)

タカハシU太

怪談東京物語

 尾道の義母が危篤だという。つい先日、義父と一緒に東京へ遊びに来たばかりだったのだが。忙しい息子夫婦や娘夫婦たちに邪険にされ、私が会社を休んでまでして東京見物に付き添い、挙句に私のアパートに泊まらせてあげた。義父母はどちらも老齢のため、頭の回転も喋るのも歩くのもすべてが遅かった。さながら生ける屍だ。

 なぜ私がせっせと相手をしなければいけないのか。頼まれたら断れない性格とはいえ、夫は八年も前に亡くなっているのに。朴訥な義父母は私を気に入り、ひたすら感謝してくれた。実の子供より他人のセツコさんのほうがよくしてくれると。私はちっともいい人じゃない。それに名前はノリコだ。何度、指摘しても間違えられる。

 亡き夫のことはもう忘れるべきだと言ってくれた。私だって新しい人生を歩みたい。だけど枕元に毎晩、夫の霊が笑顔で現れるのだ。まるで私を監視するかのごとく憑りついて。


 尾道は遠かった。凪いで熱していた。着いた途端、義母はぽっくり逝った。喪服はわざと忘れたのだけれど、葬儀はまさかの正座で行われた。おまけに冷房もない。地獄を味わった。

 一人ぼっちとなった義父は完全に抜け殻となってしまった。親族内で施設行きの話が上がっていた。もうこれで義実家とは縁を切れると内心、喜んだ。夫の霊が現れても知るものか。

 だが、事態は悪化した。東京の私のもとに夫だけでなく義母の霊までが現れるようになった。二人して満面の笑みで。やたら人に親切にするもんじゃない。いずれ義父も加わるのだろうか……。

                    (了)

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