第24話 闇夜ゲーム
マリアは今日も一日中若い恋人と一緒に過す。
この三年間ためていた我慢を一気に晴らそうとするかのように、マリアの火照った女ざかりの体は若い男に襲いかかった。
菊池章一郎の写真が程よい興奮剤の役割さえ果たしていた。
マリアがその男と知り合ったのは、新宿歌舞伎町のあるバーで行われた闇夜ゲームと呼ばれる男女の交際相手を捜す遊びであった。遊びではあるが中には本当の恋愛に発展する場合もある。
そのゲームとは真っ暗な部屋に、互いの姿がみえない厚いカーテンで仕切られた隙間から男性が手を差し出すと、女性がその手を握り、感触だけでYESかNOの判断をくだす。
5秒間握っていればOKと判断され、互いの姿が見える部屋に移動して一時間だけは絶対に断ってはいけないデートタイムとなる。
ただしこのデートタイムは、酒を飲みながら会話をする時間であり、それ以上を望むかどうかはそれぞれの自由である。
マリアはこのゲームに参加するするようになってから、約20人の男と出会い、ホテルに移動して朝まで存分に楽しんだ。その中でも特に強い印象を受けた男がいた。
男の名前は進藤といった。
進藤はあれが終わった後「ぼくは銀座に新しくできたセレクトショップで働いています。面白いものがたくさんありますから一度見に来てください」と言って、巧みにマリアに誘いをかけた。
進藤の誘いなら何を売っている店でもよかった。ただ、あの時の快感をもう一度味わいたい。ただそれだけだ。翌日にはもう進藤がいったセレクトショップの前にいた。
「いらっしゃいませ、ご指名はありますか」
「進藤さんをお願いします」
マリアが通された部屋はガラスで仕切られた、シーンと静まり返った異世界にいるかのような感覚を覚える空間であった。
「マリアさん、僕が今日おすすめするのは、このダイヤのネックレスです」
ほかに何も聞こえない説得部屋で耳元でささやいた進藤の声は、マリアの子宮をさする柔らかい天使の指先であった。
マリアはテーブルの上に置かれたネックレスの品質も、提示された価格もどうでもよかった。たぶん同じ程度の品ならもっと安く手に入るだろう。
そもそもダイヤモンドのネックレスはたくさん持っている。
進藤はマリアに勧めれば、より高額な商品を購入する見込み客と判断した。
進藤は翌日にはもう、代々木上原のマリアの邸宅を訪れた。
広い敷地内にはよく手入れをされた日本庭園があり、建物は筑後、数十年は経つだろうがその構えは圧倒的な存在感を放っていた。
この立地の良さ、この土地の広さから数億円、いやもっとするかも知れない。
進藤の頭の中には卑しい計算が弾き出されていた。
デート商法の魔の手がマリアに迫っていた。
☆☆☆
ボスロフ邸で数日過ごしたジョージイはイリーナとともに、麻布十番の商店街でショッピングを楽しんでいた。つい一か月前、ここで原島と麻布十番祭りを楽しんだところである。
賑やかな祭りの雰囲気はジョージイに日本の祭り、日本人の意識をを強く意識させた。
ここから歩いても5~6分の距離に飯倉片町がある。
ボスロフとイリーナが知り合い、愛を誓った場所であり、菊池章一郎とも三人で遊んだ思い出の街である。
イリーナにとってはジョージィは菊池愛子なのだ。夫ボスロフの親友菊池章一郎の娘愛子なのだ。
飯倉片町の交差点から東京タワーの方向へ向かって歩くと、わずか百メートルほど先の右側にロシア大使館がある。
今そこにはジョージイを狙う諜報部員がいる。そのロシア大使館の真裏には東京アメリカンクラブがある。何とも皮肉な場所である。
イリーナはジョージィを守るには、ジョージイをアメリカに住まわすのが最も安全ではないかと考えていた。日本にいては危ない。
だがその時は、原島とジョージィを引き裂く辛い選択を迫られる。
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