第10話 停船命令

 翌日、原島は花咲線に乗車し、厚岸に行ってみることにした。

 漁港だと聞いているから紺野が来ていた可能性はある。

 「漁業協同組合などに聞いてみよう、何か手がかりがあるかも知れない。

 美味しい牡蠣も食べられる」実は昨夜も釧路の居酒屋で牡蠣を食べたのだが牡蠣なら毎日でもいい。

それにできれば、由紀子が話していた美人宿泊客のホテルに泊まってみたい。


 厚岸の駅で降車すると潮の匂いがした。海の町を実感する。

 その美人が宿泊したホテルはすぐに分かった。

 厚岸駅を降りてすぐ目の前にある「五味ホテル」で聞いてみるとそこが目的のホテルであった。

 「今日は空き室はありますか」と尋ねると、運よく一部屋あった。

 荷物を降ろしてフロントで話を聞くと、原島を通した部屋が例の美人客が宿泊した部屋だという。

 自分がだんだん、不思議な女性の秘密を暴きに来た、探偵のような気持ちになっていた。

「その女性の名前を教えて頂けませんか?」とお願いしてみた。

 さすがに「それは出来ません」と断られたが「お客さん……あの人と何か……?」と聞いてきた。

 原島はじらすように「まあ…少し……」というとフロントの女性はこの手の話に興味が湧いてきたように見えた。

 パソコンを叩き一枚の紙を原島に差し出した。

 それは、宿泊客に渡す請求明細書であった。

 そこに記された名前は「菊池愛子」となっていた。


 原島が厚岸の漁業協同組合や漁具扱い店などを周っているころ、稚内港にロシアに拿捕されていた漁船が無事帰港した。

 船長と乗組員の他、技術者1名の計5名で出港したが帰港した時、技術者はいなかった。

 その技術者とは船舶用電子機器メーカーの人で、新しく導入した機器のテストのため同乗していたらしい。

 後日、札幌にある電子機器メーカーの支店に先般の拿捕事件の際、第三陣得丸25トンに乗っていた技術者について、海上保安庁から調査の依頼があった。

しかし会社の答えは意外にも「その様な人物は当社には居ません」更に「テストの為に技術者を派遣したこともありません」ではあのメーカーの技術者と名乗った人物は何者なのだろう。


 この件は北海道の地方紙には載ったが、中央紙には載らなかった。

 船長の話では、機器の取付工事のため二日間停泊し漁を休んだ後、テストと言われ出港した。そして「もっと沖へ」といわれた。

テストのために危険を侵すことはない「これ以上は危ない」と感じた船長は舵を切った。

 その時、ロシアの沿岸警備隊の船が現れ停船命令を受けた。

 更に船長は「網も積まず魚層は空なのに重いな」と感じた。

 しかし、帰りは軽かった。























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