第8話 遺憾に存じます

 翌朝、テレビのニュース番組で、根室の第一光文丸25トンがロシアの沿岸警備艇に拿捕されたと報じていた。

 ロシアによる、拿捕事件はこれまで何度もあり、またかという思いだった。

しかし、原島には根室という地名が気になった。

 紺野が行く予定の場所だったからだ。


 根室以外でも拿捕事件は起きていた。

稚内港の第五茂上丸が拿捕され、サハリン州のコルサコフに連行されたのが六月上旬であった。

 この時は一週間後に第五茂上丸は稚内港に戻ってきた。

しかし400万ルーブル(約1,100万円)の罰金を支払ったという。

 ロシアは排他的経済水域を、ロシア側に越境したと主張したが、それは全て事実ではなかった。

 日本政府は直ちに抗議したが、ロシアが応じることは無かった。

 またしても「遺憾です」で終わった。


 この日のニュースでは他に、北朝鮮が発射したミサイルが日本海に落下した事も伝えていた。

 「外国との交渉は難しいのだろう、でも何とかならないものなのか」このことを考えると段々と腹が立ってくる。

「偉い人に頑張ってもらおう」 

 原島は半ば諦めの気持ちになっていた。

 それにしても「遺憾です」の一言ですべて終わらせる、日本の姿勢が問題だと思うのだが。


 狩野はやはり新しい恋人と一緒だった。

 彼女はタレントになるのが夢で、いまも芸能プロダクションに所属しているらしい。

 地元のアイドルグループの一員として活動しているが、東京での仕事を探している様子だった。テレビに出演するのが夢らしい。


 いつでもオーディションを受けられるように、準備をしているとのことで「原島さんはどこに住んでいるの?」とか「東京で何かあったら電話していい?」とか、狩野のことは忘れたように原島を質問攻めにした。


 やや天然ぎみの部分はあるが、一般受けしそうな可愛い娘であった。

 歳は24歳といっていたがもっと若く、十代といってもいいように見えた。

「狩野にこの娘がコントロールできるのかな?」と思いつつ三人でビールを飲んだ。彼女の現在の仕事はビール会社のキャンペーンだという。


 彼女自身ビール党でうまそうに飲んだ。

 狩野にとっては久しぶりのビールで彼女もいる。

 ほんとうに幸せそうだった。

 原島は「今度こそ上手くやれよ、やるべきことはしっかりやれよ」と思わずいってしまいそうになった。























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