第2話 ね、の付く男
翌週の木曜日、部長代理の松野茂に呼ばれると「原島君、君にね、この前やってもらった件のね、追加をね、お願いしたいんだけどね、大丈夫だね、明日までなんだけどね、」
松野の話には単語の一つ一つに「ね」が付く。
又か、と思いつつも「大丈夫です」と答えてしまった。だが本当は大丈夫な訳がない。この一か月でもう三回目の徹夜だ。だが今回は少し気持ちが違った。
ジョージィとのことが思い出されて、この仕事が終わった後には又、何かが起こりそうな気がしたからである。
しかも明日は金曜日だ、このまえの出来事も金曜日だ。
原島はむしろ徹夜仕事になることを望んでいた。
同じことが起こるなんて、そんな偶然は滅多にあるものではない、
しかもわずか数分の会話に過ぎない。
しかし、それを期待している自分を、少しもおかしいとは思わなかった。
「この前、ジョージィは自分の名前を知っていた、しかも一時間一緒に居ようと言った」
「あれは冗談ではなく、ジョージィの本心だったのではないか」
「いや、絶対に本心だ」原島は自分の願望が、まるで決定した事実であるかのように、勝手に想像をめぐらしていた。
金曜日の午後、松野が命令した仕事が終わると原島は、奈津美に「今日は早く帰りま……」と声をかけようとしたのだが、その奈津美は不在であった。
「今日は何かを食べて帰ろう、ジョージィと一緒に」と、その足は先週ジョージィが消えた店に向かっていた。
果たして、ジョージィはテラス席に座っていた。
原島を見ると、ジョージィが少し笑顔を見せたように感じ「やはり自分を待っていたのだ」原島は勝手にそう解釈すると、遠慮せずジョージィの横に座り、なんて言おうか、約束していた訳ではないから「お待たせ、は変だな」などと一瞬考えていると、ジョージィが先に口を開き「今日の原島さんはこの前とは全然違うわ」と言った。
この前の自分が、あまりにもみっともない姿だったので、どうしたらばん回できるかそれだけを考えていた原島は、ジョージィに先を越されてしまった。
しかし、ジョージィが自分に嫌な印象は持っていないことは、はっきりした。
なにを話したのか覚えていないほど話は弾み、時間が経つのも忘れ、店の奥に同僚の奈津美が居たのにも、気が付かなかった。
ジョージィが「私、そろそろ会社に戻らないと」と言わなければ、いつまでもそこにいたに違いない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます