第501話 本当の狙い

「ふっふっふ〜ん!!」


 完璧に決まったわっ!

 会場にいた貴族達を始末したと、ラルフィー少年が確信していた所にこれ!!


 今のは我ながらカッコよかったはず!

 むふふっ、これでまたしても孤高の冒険者ソフィーの……この私の武勇伝が生まれてしまったわね!!


「バ、バカなっ! なぜっ!?」


 ラルフィー少年は随分と驚愕して取り乱してるみたいだけど……


「何をそんなに驚く事がありますか?」


 そんなに知りたいなら教えてあげよう!


「今あなたが対峙しているのは人類最強の一角。

 人々を守る最強の剣にして盾……Sランク冒険者なんですよ?」


 この私を!


「このくらい当然でしょう?」


 私達を無視して、先に無力な人達を始末しようなんて言語道断!!


「な、なんだと……?」


「いわば私達Sランク冒険者は、人類の守護者といえる存在。

 そんな私達がたった一つの策しか用意しないとでも?」


「っ!!」


 ラルフィー少年は目を見開いて息を呑んでるけど、まさか本当に私がなんの保険も用意してないと思われていたなんて心外だわ。


「例え本命の作戦が失敗したとしても、問題がないように幾重にも策を巡らせるのは至極当然!

 さっきの転移魔法陣は貴方の気を引くための、ただの囮にすぎません」


 そう! 最初からラルフィー少年を転移させられるなんて思っていないのだよ。

 だって今のラルフィー少年を転移させるには、かなりの時間がかかるし。


 そもそも転移魔法を使えるものどうしの戦闘において、相手を転移させる意味はほとんどない。

 なにせ相手を転移させたとしても、また転移魔法で戻って来られちゃう可能性があるわけだし。


 転移させたところで、どうせラルフィー少年も転移魔法は使えるはず。

 つまり! ラルフィー少年を転移させる意味なんて、実はないな等しいのだ!!


「ふふっ、この通り。

 はじめから狙いは、この場にいる皆を守るための結界を張る事だったという事です」


 むふふふっ! さっきから私のカッコいいムーブが止まるところを知らない!!


「まぁこの結界を構築したのは僕なんだけどね……」


 とかなんか苦笑いしながらフィルが呟いてるけど。


「ソフィーたん、かっこよすぎてツライ!!」


 ついでにエマも何か言ってるけど……今は細かい事は気にしないっ!!


「あぁ、アイツらも無事だったんだね」


「あっ!」


 そうだった!

 気分がよくて危うくスルーしちゃうところだったけど、フィルに物申さないといけない事があるんだった!


「ちょっとフィル、どうしてエマ達には結界を張らなかったの?」


 咄嗟に私が後ろの貴族達の側。

 フィルの結界の中まで転移させたからよかったものの、もうちょっとでエマ達が文字通り吹き飛ぶところだったんですけど?


「どうしてって、ラルフィーのせいで有耶無耶になってるけど、アイツらはソフィーに冤罪を被せて貶めようとしていた愚か者達。

 つまりは敵なんだよ?」


 いやまぁ……うん、それはそうだけど。


「確かに彼ら程度じゃあ、僕達を相手にそんなバカな真似は不可能だよ?

 でもキミをそんな目にあわせようする奴らを、態々助けてやる必要はないと思ってね」


 おおぅ、フィルが爽やかな笑顔でさらっと辛辣な事を。

 けどまぁ……


「むふっ、フィルったら」


 これはチャンスっ!!

 いつも子供扱いしてからフィルを揶揄って、公衆の面前で赤面させてやるわ!!


「そんなに私の事が好きなの?」


 さぁ! 恥ずかしがるがいいっ!!


「仕方ないよ」


 あ、あれ?


「あの頭の軽い王子との婚約を破棄した今、フリーになったソフィーを狙う者は山のようにいるだろうからね。

 キミは僕のモノだって知らしめておかないと」


「ほぇ?」


 い、今なんて……?


「でないと、僕のソフィーに手を出そうとする男達が殺到する事になるからね」


「な、なっ……」


 なんか思ってた反応と違うっ!!!


「ななな何言ってるのっ!?」


 こ、こここ公衆の面前で!

 それって最早、こっ! こく、告白じゃないっ!!


「ふふっ」


「ッ〜!!」


 フィルのあの顔!

 ま、まさか……


「また私の事を揶揄ったのね!?」


「人の事を揶揄おうとするからだよ?」


 やっぱり!!

 天使みたいな顔をして、悪魔みたいな性格をしてるんだからっ!


「それに彼らも一応はそれなりに名のある冒険者。

 しかも……セドリック・エル・イストワール、彼はを名乗る者だからね。

 勇者パーティーとして、あのくらいは自分達でどうにかしてもらわないと」


「それはそうかもしれないけど……」


 それにしても、勇者ね。

 ちょうど魔王にして、教団の最高幹部である十使徒が第六使徒でもあったルイーナ傘下の犯罪組織。


 影の騎士シャドウを壊滅させた事件の後から、世間で少しずつセドリックをそう呼ぶ声が現れ……ついに先日、セドリックは勇者を自称した。


 これもまぁ、乙女ゲームの流れっちゃ流れなんだけど。

 かつての真実を知っている身からしたら、勇者という称号になんとも言えない感情を抱いてしまう。


「むぅ〜」


 それこそフィルの言う通り、勇者を名乗るのならあれくらい自分でなんとかしろと思ってしまう。


「まぁ、他の男達への牽制っていうのも嘘じゃないけどね」


「へ?」


 い、今なんて?

 昨日のレフィーちゃんとのもふもふお茶会……じゃなくて! 魔王と勇者の根深い因縁について考えてて聞いてなかったんですけど。


「キャー!! フィルレフィカップルが尊すぎるっ!!」


 と、とにかく!

 ラルフィー少年とはまた違ったベクトルで、主に悪い方に豹変しちゃったエマはとりあえず置いておくとして……


 シリアスな展開なはずなのに、なぜか場の緊張感が緩んでる感じがすごいし。

 この何とも言えない、いたたまれない空気をなんとかしなければっ!!


「こ、こほん! さぁ! これで遠慮はいりません!!

 ちょうどいい機会ですし、皆さんにはこの私の……Sランク冒険者の中でもトップクラスの実力を誇る、私の力を存分にお見せしましょうっ!!」

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