第502話 Sランク冒険者の戦い

「……」


 目の前で繰り広げられる、一連のやり取りに国王という立場にあるまじき間抜けな顔をしてしまったのも無理はないだろう。


 現にドヤ顔をしているソフィー……ではなく、ソフィーの冒険者としての相棒であるSランク冒険者〝光天〟フィル。


 レフィア神聖王国の王太子殿下でもある、アルフィル殿下が展開してくださったこの光の結界の中で守られている貴族達の殆どが私と同じような顔をしているのだから。


 尤も私は今も間抜けな顔を晒している彼らと違い、すぐに表情を取り繕ったわけだが。

 そしてそれは王妃である私の妻のフローラ同じ、だが私もフローラもそして貴族達も考えている事は同じだろう。


「ふざっ……ふざけるなっ!!」


 結界の向こうで、正体を露わにしたセドリックの側近だった少年。

 ラルフィーが怒りを露わに、声を荒げているが……敵ながら彼の気持ちはよくわかる。


 なぜなら……つい数分前までの重苦しい雰囲気が。

 目の前の、隣の、そして自身の、命が脅かされている緊張感に満ちた空気が一転。


 ソフィーとアルフィル殿下がイチャイチャと、乳繰り合っている光景を見せつけられていたのだから。

 つい数秒前までとの空気感のギャップに、唖然としてしまうのも仕方がないし……


「き、貴様らは私を……この私をバカにしているのか!?」


 実際にソフィーたちと対峙しているラルフィーが、激昂してしまうのも頷ける。

 戦闘中だと言うのに、突然自身を無視して恋愛小説の一幕のような光景が繰り広げられたら虚仮にされたと感じるのは至極当然だろう。


 あの子が子供の頃から知っているからわかるが、ソフィーはテンパると多少強引でも無理やり話を収めようとするところがあるからな。

 今回も恥ずかしくなり、咳払いをして話をぶった斬った。


「は? バカになんてしていませんが?

 私は至って真剣です」


「っ〜!!」


 まぁ……うん。

 ソフィーのこの切り替えの速さは彼女の美点でもあるの。

 あの子としてはさっきので完全に話を逸らしたつもりだろうが……


 我々としてはそう簡単には飲み込めない。

 実際に敵対し、対峙しているラルフィーが憤のも頷ける。

 頷けるのだが……


「フローラ、私は今あの時のソフィーの話を思い出したよ」


「えぇ、私もです」


 一月前にレフィア神聖王国で起こった例の一件でかなり印象が薄くなったが、例の一件と同様に一月前にレフィア神聖王国で行われた世界会議。


 あれはソフィーとアルフィル殿下、そして魔法神ティフィア様……

 魔神レフィー様の娘だというルミエ様からなるSランク冒険者パーティー・トリニティの護衛のもと世界会議に出席するため、レフィア神聖王国へ向かっている道中。


「あの子は私達にとっても、可愛い姪のような存在」


 あの時、ソフィーが言っていた言葉。



『知性のない魔物との戦いとはちがい、対人戦ではただ力が強い者が勝者となるとは限りません。

 動揺すれば動きに乱れが出ますし、敵の挑発にのせられて激昂でもすればその動きは単調なものとなってしまう』



「しかし紛れもなく人類最強の一角たるSランク冒険者でもあるのだな」



『そうなってしまえば、実力が劣る存在に強者が遅れをとる事も珍しくありません。

 だからこそ私は例えどのような存在が相手でも……それこそゴブリンが相手でも決して油断はしないのです』



 したり顔でそう話すソフィーからその話を聞いた時、珍しく年相応な態度のソフィーに少し意地悪をしたくなった私はソフィーにこう聞いた。


 少し前に私達の一行を襲撃した魔物をソフィーが瞬殺際、ソフィーは片手間に魔物の相手をしていたように見えた。

 歯牙にもかけない相手でも、本当に油断はしないのか? と、それに対して。



『ふふっ、それはよかったです』


『ん? よかった?』


『はい、国王であり確かな人を見る目を持っていらっしゃるアルヴァンおじ様にそう見えたという事は、大抵の方は私を見てそのように判断されるという事。

 それで相手が私の事を、余裕をひけらかす未熟者と判断してくれたら……』



 そこで一度言葉を切ったソフィーは、楽しそうに笑を浮かべ……



『なめられているとか感じで、激昂でもしてくれれば最高ですね。

 まだ尤もそんな挑発にのってくるのは、精神的に未熟な者達だけなのですが、やる分に損はありませんからね』


『な、なるほど……』


『ふふっ、さすがはSランク冒険者ね』


『ふふ〜ん! その通りですフローラお姉様!!

 戦いとは勝った者が正義! だからこそ私は勝つために、使えるものはなんでも使います。

 だからこそ私は、いえ私達Sランク冒険者は強いのですっ!!』



 そう言い放った。


「これがソフィーの……」


 目の前でキョトンとしているソフィーと、明らかに激昂しているラルフィー。


「まぁいいです。

 そっちが来ないなら……」


 瞬間──ソフィーの姿が掻き消え。


「こっちから行きますよ?」


 ラルフィーの背後に現れる。


「人類な守護者たる、Sランク冒険者の戦いというわけか」

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