第498話 言っちゃった……

「「……」」


 愕然と目を見開き、とても王太子に宰相令息の侯爵家嫡男とは間抜けな顔を晒してるセドリックとオズワルド。


「これは……」


「ははっ……」


 あまりの凄さに苦笑いをする事しかできないでいる、サイラスとガイル。


「ッ──!!」


 一瞬だけ目を見開いたものの、私を……というか何故か私の援軍達を憎悪の籠った形相で、射殺さんとばかりに睨みつけてるラルフィー少年。


「な、なんなのよこれっ!」


 乙女ゲームとはかけ離れた展開に困惑しつつも、ラルフィー少年とは違って私の援軍達には目もくれずに、キッと私を睨む聖女エマ。


 セドリック達が計画した愚かでバカで非常識極まりない、婚約破棄宣言という茶番を見ていた観客達。

 この場に集ったイストワール王国の貴族達が、固唾を呑みながら注視する!


「さて……」


「っ──」


 間抜けな顔を晒してながら放心して、呆けていたセドリックがビクッと情けなく震えながら私を見据え……


「セドリック・エル・イストワール殿。

 私がSランク冒険者だというのは、私がついた嘘だと。

 この私が嘘をついているいうのが、この場にいる皆さんの総意だと、そう言いましたね?」


 瞬間──会場にいる殆ど全ての人物から、私と対峙するように立つセドリック達に熱い視線が殺到する。

 まぁ尤も、熱い視線と言っても当然いい意味じゃない。


 セドリック達に会場中から鋭い視線が注がれてるわけだけど、こうなるのも当然というもの!

 だってセドリックの不用意な発言のせいで、私が嘘をついてSランク冒険者の地位を騙ったと断じた一員になっちゃったわけだしね。


 さっきセドリック自身が言ってたけど、Sランク冒険者といえば単身で国を相手取る事がでる存在!!

 その影響力は測り知れず、国の行く末を左右する事すらしばしば。


 先の発言はそんな存在たる私に対する、明確な敵対とも取れるものだもん。

 勝手にSランク冒険者と敵対させられたとあって、貴族達は溜まったものじゃないだろう。


「ふふっ」


 まっ! 実際には巻き込まれただけだし、彼等をどうこうするつもりはないんだけども。

 むふふっ! せいぜい貴族達から恨まれるといいわっ!!


「そして私達、Sランク冒険者が特級依頼を達成したというのも同様に私の虚言だと」


「そ、それは……」


 まぁこっちは主にラルフィー少年の主張だけど。

 それはともかくっ!!


「ですので、新たな証人をお呼びしました。

 どうやら皆さんにとって、残念ながら私の同僚では……Sランク冒険者〝光天〟フィルでは証人に値しないとの事ですし」


 ここでチクリと小言を言うのも忘れない!

 むふふっ、貴族達の視線が更にキツくなるのも当然というもの! 我ながら素晴らしい悪役ムーブだわ!!


 これまで10年以上。

 5歳の時から本当に、本当に! セドリックには迷惑をかけられて来たし。

 ここはもっと追い詰めてやりたい所だけど……


 私は誇り高き人類最強の一角たるSランク冒険者〝白銀〟ソフィーであり、孤高の悪役令嬢たるソフィア・ルスキューレ。


 ここは海のように広くて深い寛大な心で、今まで被った被害には目をつむるとして。

 早くトドメをさしてあげるとしよう!!


「はっはっはっ!」


「ルフィールおじ様?」


 急にどうしたんだろ?


「だそうだよ?

 残念ながらキミ1人では、ソフィーちゃんの役に立つには力不足だったようだね。

 Sランク冒険者〝光天〟フィル……いや、我が息子アルフィル」


 あっ、言っちゃった……って! そんな事を言ったら!!


「えっ……?」


 聖女エマがポツリとこぼした呟きが響き。

 さっきまでセドリック達を睨んでいた貴族達の視線が一斉に私の隣。

 私と殆どお揃いの仮面をつけているフィルに集中し……


「まったく……」


 やれやれとため息をつきながら、ゆっくりと優雅な動作でフィルが仮面を外し。


「揶揄おうとしても無駄ですよ、父上」


 瞬間、会場全体がどよめきに包まれる。

 ガイルとサイラスも驚愕にあんぐりと目を見開いてるし、セドリックとオズワルドなんて見る見ると顔を青ざめさせて。


 まぁさっき偽物扱いしちゃっフィルが本物のSランク冒険者で、なおかつ超大国の王子。

 それも広く顔が知られている王太子ともなれば、そんな反応になるのも納得できる。


 解せないのは、何故かさっきルフィールおじ様達を見ていたのと同じ憎悪の籠った目でフィルを睨むラルフィー少年。

 そしてセドリックやオズワルド以上に顔を青ざめさてるエマ。


「なんで……」


 困惑したようにエマが呟き……


「どうして! フィルソフィがここにいるのっ!?」


 そんな叫び声が会場中に響き渡った。

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