第492話 ご紹介いたします

「うふっ」


 でもまぁ、ガイルがこう言うのも当然の事!!

 なにせガイルは私の正体を……私が人類最強の一角たる白銀の二つ名を冠するSランク冒険者という事実を知っているのだからっ!!


 いくらこの国の将来を担う、秀才といえどガイルの実力は私に遠く及ばない。

 つまり! ガイルには私を拘束する事ができないというのは、ただの事実に他ならないのだよ!!


「ガ、ガイル……?」


「どうしたんですか? 貴方らしくもない。

 っ〜まさかっ! ヤツに何か弱みを握られたのですかっ!?」


 命令を拒否された事実に困惑するセドリックの隣で、オズワルドが的外れな事を言って私を睨み……


「いえ、単に私の実力では……」


「そうか! なんと卑劣なっ!!

 この場を守護する近衛騎士団よ、卑劣なソフィア・ルスキューレを拘束せよっ!!」


 ガイルの言葉を遮って、セドリックが声高に命令を下す。


「ほほう」


 なかなかの身のこなしと連携。

 これだけ多くの貴族がいて混雑している会場の中にあって、セドリックの命令を受けて瞬時に私を包囲するとは。


「しかし……近衛騎士団ですか」


 この国、イストワール王国の王国騎士団は第一から第六まだ存在するわけだけど、全騎士の中でも選りすぐりの最精鋭のみが選出され、所属する事が許される王国騎士達の頂点。


 本来なら王国騎士団を統括するのは、各団の団長と副団長であり、指揮系統の頂点には王国騎士団と魔法師団の双方を統括する総帥たるネヴィラお姉様が君臨する。


 だけど、近衛騎士団だけは違う。

 彼らだけは総帥の指揮下に存在しない、国王直属の特別部隊であり、近衛騎士に命令を下さるのは国王のみ。

 まぁ今は全権代理である、セドリックの命令に従ってるみたいだけど。


 とにかく! 構成員は僅かに50名ながらも、騎士団の名を冠していて。

 末席ですら王国騎士団、魔法師団なら第五席には食い込むであろう実力者。


「ソフィア・ルスキューレ公爵令嬢。

 陛下不在時の全権代理を仰せつかっておられる王太子殿下の命により、これより貴女を拘束させてもらう。

 我々としてもあまり手荒な真似はしたくない、無駄な抵抗はせずにおとなしく……」


「ねぇ、貴方。

 序列は何席かしら?」


「は?」


 当然だけど、近衛騎士団の中にも序列は存在する。

 団長が第一席、第二席と第三席には副団長と続く。

 そしてそんな近衛騎士団にも王国騎士団や魔法師団と同じように、上位十席にあたる人物には私の事が共有されてる。


 つまり! この場で私を拘束するなんて口走っちゃうって事は、彼らは私の正体を知らないという事!!

 まぁ上位十席を含めたトップ層は、エルヴァンおじさん達の護衛として一緒にレフィア神聖王国に行ってるから当然なんだけども。


「見たところ、序列20位後半といったところかしら?

 貴方が留守を預かっている、司令官ですね?」


「何故それを──ッ!!!」


 臨時の司令官が。

 私を包囲していた近衛騎士達が驚愕に目を見開き、全身に冷や汗をうかばせながら息を呑む。


「ふふっ、随分と……私も甘く見られたものです」


「うっぐぅ……!?」


 私が発する重圧を受けて、苦しそうに顔を歪め……


「貴方達如きが、この私を拘束する?

 私の覇気を受けただけでこの有様の分際で、身の程を知りなさい」


 立つ事すらままならない近衛騎士達が、立派な鎧を鳴らしながら膝をつく。


「な、何が……」


 誰も……実際に私の覇気をその身に受けた近衛騎士達と面白そうに観ているネヴィラお姉様以外は何が起こったのか理解できず、静まり返った空間にセドリックの間抜けな声が鳴り響く。


「殿下」


「っ!!」


 私に声をかけられてビクってなってるけど、情けないだけで全然可愛くないわ。

 天使みたいなフィルだったら可愛いんだけどなぁ。


「貴方は先程、この私が彼女に対して嫌がらせを行ったとおっしゃられました」


「そ、そうだ! 貴様はエマに嫉妬し……」


「何故でしょうか?」


「は?」


「何故私がエマ様に嫉妬する必要が? 私が彼女に嫉妬する要因はないと思いますが?」


「ふん! 強がるのはよせ。

 私は時には互いの命を預け合うような数々の冒険を経て、エマやパーティーメンバーの皆と確かな絆を築き育んできた。

 その信頼関係が、エマが私と親しい間柄にあるという事実に貴様は嫉妬したのだ」


「つまり、殿下とエマ様が親しいがために、私がエマ様に嫉妬し、数々の嫌がらせを行ったと?」


「違うというのか?」


「えぇ、違います」


「なっ!?」


 何を驚く事が?

 確かに私がセドリックの事を愛しているのならば、その動機にも納得できなくはない。

 が! 重要な点が間違っているのだよ。


「数々の冒険の中で友情が芽生え、確かな信頼関係を築き、親しくなるのは私にも理解できます。

 ですがお忘れですか? 失礼ながら私は殿下との婚約および婚姻を望んでなどいないという事実を」


「は? 何を言って……」


「私が殿下と仮とはいえ、婚約を結んだのは陛下が幾度も直接頭を下げて願われたからです。

 だからこそ渋々私は殿下との仮婚約を受け入れたのですよ?」


「仮婚約、渋々……」


「私は殿下を愛してもおりませんし、殿下がエマ様と親しくされるのは、私にとってメリットであって何の不都合もございません。

 よって私が殿下とエマ様の仲に嫉妬し、嫌がらせを行う事などありえません」


「「「「……」」」」


 セドリックが、エマが、オズワルドが、ラルフィー少年が唖然と目を見開いて、会場内が静まり返る。


「しかしながら……いくら私が本心と事実を述べたところで、殿下や皆様には信じてはいただけないでしょう」


「そ、そうだ! 貴様の言っている事は全て、証拠など存在しないただの貴様自身の言い分でしかない!!」


 それはそちらも同じだと思うんだけど……まぁいいや。


「ですので、確かな証拠と証人をご用意させていただきました」


 そう、セドリック達が冒険の中で絆を築き、特別な思いを育んだように。

 私にもいるのだよ! 命を預けられる絶対的な信頼をおける仲間が!!


「「「「「「「「──!!!」」」」」」」」


 瞬間、会場に響めきが巻き起こる。

 何故ならば……


「ご紹介いたします。

 彼はSランク冒険者が1人、〝光天〟フィル」


 転移魔法によって、私の隣にフィルが現れたのだから!!


「私が絶対的な信頼を寄せる相棒にして、我がパーティー・トリニティのメンバーです」

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