第490話 さぁ! はじめましょう!!

 この日。

 イストワール王国に存在する、世界でも有数の歴史を誇る由緒正しき学園。

 イストワール王立学園の卒業式、ならびに卒業記念パーティーの日。


 既に卒業式は恙無く終了し。

 豪華で煌びやかな装飾が施された王宮の大広間にて、晴れの舞台に着飾った卒業生達の新たな門出を祝うパーティーが催されていた。


「みんな! 少し私の話を聞いて欲しい!!」


 卒業生だけではなく在校生や保護者達も参加しており、各々が親しい者達と笑顔を浮かべ和やかに談笑していた大広間の一角から上がった声に騒めきが大広間を包み込む。


 みんなが視線を向ける先……そこに立つは6名の人物。

 金の髪に真っ直ぐで強い意志が宿った青い瞳、どこか優しさを感じさせる甘く整った容姿。

 イストワール王国が王太子、セドリック・エル・イストワール。


 銀の長髪に銀縁の眼鏡に彩られた高い知性を感じさせる緑の瞳を持つ青年。

 数代にわたって宰相を務める王国の頭脳、アイビー侯爵家が嫡男オズワルド・アイビー。


 燃えるような赤い瞳と短髪。

 ほど良く鍛え上げられた肉体に、腰には一本の剣。

 騎士団長であるアレス伯爵の嫡子にして学生の身でありながら近衛騎士団の一員でもあるガイル・アレス。


 薄い青の髪に水色の瞳。

 魔法師団が団長、エドウィン侯爵が嫡子であり天才の再来と名高い魔法の麒麟児と称されるサイラス・エドウィン。


 ピンク色の髪にグリーンの瞳をした小柄な少年。

 イストワール王国の経済を牽引する、国内でも最大級の規模を誇る大商会であるティエス商会会長の跡取りラルフィー・ティエス。


 そして……セドリックにエスコートされ、他の面々に守られるようにして立つ、美女というよりも美少女といった黒髪黒目で小柄な愛らしい少女。

 神宮 依真かみや えまこと、異世界より召喚されし聖女エマ。

 誰もが壇上に立つ彼らの言動に注目する中──


「ソフィア・ルスキューレ公爵令嬢!

 今日この時をもって私は貴様との婚約を破棄するっ!!」


 王太子セドリックの怒りを含んだその言葉に、騒ついていた大広間が一瞬にして静まり返る。

 そして、聖女エマを庇うように立ち並ぶ王太子セドリックと4人の側近達……主に2人だけど、とにかく! 鋭い視線で睨まれている1人の少女へと……


 スラッとしたスレンダーな体型、白銀の髪にアメジストのような紫の瞳。

 仮とはいえ婚約者であるセドリックから向けられる敵意にも、一切動じる事なく静かにその紫の瞳でセドリックを見据える少女。


 誰もが見惚れるほどに美しい、非常に整った容姿。

 しかしながら、どこか冷たい印象を抱かせる孤高の悪役令嬢ことこの私っ! ソフィア・ルスキューレ公爵令嬢に視線が集まるっ!!


「ふふっ」


 最後の対策会議で、最終確認も完璧!

 そして何より……私は力をつけた、それこそ人類最強の一角に数えられる程に強くなった!

 信頼できる仲間達もたくさんできたっ!!


 今のこの状況には既視感がある。

 確かにはじめて前世の記憶を思い出した5歳の時に、夢で見た光景と非常に似ている。

 けど似ているようで、決定的にあの夢とは全く違うっ!!


「婚約破棄、ですか」


 最早あの時の夢のような展開になる事はありえない。

 1ヶ月前の戦いでレフィーちゃんは、女神アナスタシアとの400年に渡る因縁に決着をつけた。


 今度は私の番っ!

 さぁ! はじめましょう!!

 今日ここで私もセドリックとの因縁に決着をつけて、完膚なきまでに圧倒しやるわっ!!!

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