第468話 観戦者達 その2・もうすぐ終わるよ

「ぁ、うぁっ……」



 あんなに圧倒的で膨大な魔素エネルギーを誇り、私達とは文字通り生物としての格が違うと嫌でも理解させられる存在感。

 神の名に相応しい、絶対者として君臨して私達を睥睨していたあの女神アナスタシアが……愕然と目を見開いて、言葉にもならない声を出す事しかできていない。


「ぅ……」


 いやまぁ、うん。

 レフィーちゃんに髪を無造作に掴まれて、顔を覗き込むように見下されながら、恐ろしく冷たい瞳と声で命令されたら、そんな反応になっちゃうのもわかる。


 傍から見ているだけでもハッキリと感じる、身が竦むまでの凄まじい怒りの波動。

 もはや私レベルでは計り知れない、世界を揺るがし、空間を歪ませるほどの魔素エネルギー


 私に向けられたモノじゃないとわかっているのに。

 ネフェリアス様とレフィーちゃんが展開している二重の結界で守られているのに。

 さっきから自然と身体が震えて止まらない。


 レフィーちゃんの言葉1つ、一挙一動で呼吸すらままならない。

 あんなに可愛いレフィーちゃんが……今は怖くて恐くてたまらない。


「あちゃ〜、悪魔ちゃんったら結構ガチでキレてるじゃん」


「お母様……」


「う〜ん……これはちょっと、マズイかな?」


 流石は最高神たるネフェリアス様だわ。

 ルミエ様ですらちょっと声が震えて青ざめてるし、私なんて気力を振り絞ってまともに呼吸するだけでも精一杯なのにこの余裕。


「っと、まずは……これでよし」


「っ〜!?」


 い、いったい何がっ!?

 急に身体が楽に!!


「少しはマシになったかな?」


「これって、もしかしてネフェリアス様が?」


「いかにも。

 今の悪魔ちゃんが放っている神威と魔素は、結界があるとはいえソフィー君達は勿論、王都の人々には強すぎるからね。

 この一帯にのみ、更に神域を展開する事で保護したってわけさ」


 な、なるほど。

 既にこの大陸全土に神域を展開して保護してたはずなんだけど、その上から更に神域を……

 ちょっと私の理解の範疇を超えてるけど、凄いってとだけはわかりました!!


「うんうん、キミ達は皆優秀だね。

 結界越しとはいえ常人なら当然即死、今の悪魔ちゃんを見ただけで魂も消滅するだろうに、誰一人として膝を着かなかったし、今はもう全員もう平気そうだ」


 ふふん! まぁ、これでも私達は人類最強の一角たるSランク冒険者ですので!!


「ペタンと耳を倒して、ぷるぷる震えるソフィー君も可愛かったけど……残念だけど仕方ない」


「っ──!!」


 いやぁっ! やめてっ、恥ずかしいっ!!


「そ、それよりも!!

 レフィーちゃんのあの姿は……」


 白と黒の合計6対12枚の翼。

 なんというか、めちゃくちゃ神々しい。


「ふふっ、こっちの大陸では世界への影響が大き過ぎる事から、普段は押さえ込んでいる力を解き放った状態。

 つまりアレが悪魔ちゃんの本当の姿だよ」


「あの姿が本当の……」


「悪魔ちゃんの翼には魔素を制御する役割もあるからね。

 実際に翼を出して本来の姿を顕現させた瞬間から、次元と空間の歪みも音も止まったでしょ」


 確かに……言われてみれば、レフィーちゃんが翼をバサァってかっこよく出した瞬間から地鳴りみたいな音も揺れも止まった気がする。


「それにこれは私やアナスタシアにも言える事だけど、私達みたいな精神生命体は意思や願いと言った部分が肉体に反映されるんだよ。

 それで強大な魔素をコントロールしようとした結果、悪魔ちゃんの願望……意思を反映して最終的に今のあの姿で落ち着いたってわけ」


「な、なるほど」


 わかったような、わからないような。


「ふふっ、ソフィー君達もいずれはわかる時がくるよ」


「へっ?」


「とまぁそんなわけで、いつもならあの光景」


 あの光景?

 ネフェリアス様が今チラッと見たのは王都……


「あっ」


 これは……まぁうん。

 レフィーちゃんの今の、本当の姿はめちゃくちゃ神々しいし、レフィーちゃんの姿を目にした人々がこうなるのは当然か。


「気絶していないまだ意識がある人間達が、跪いて自身を崇め始めているに内心ドヤ顔して悦に浸っている所だろうけど。

 あの通り今の悪魔ちゃんは、愛子であるソフィーを殺すと言い放ち、あまつさえ殺気を向けた事に激怒しているからね」


「っ……」


 確かに今でも、女神アナスタシアの顔を覗き見てるレフィーちゃんからは、思わず固唾を呑んじゃうほどに緊迫した空気が伝わってくる。


「本当ならもっと遊ぶつもりだったんだろうけど……心配せずとも、もうすぐ終わるよ」

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