第469話 いらない

「ぁ、うぁっ……」


「むぅ」


 せっかくここまで!

 ここまで心を折って! 丁寧かつ親切にっ!

 私の質問に2度も連続で無視した事に目を瞑って、慈悲を与えてあげたのに……まさかこれでもなお、私の質問に答えないとは。


 何が! ぁ、うぁっ……っだ!!

 か弱い少女が森でいきなり魔物に襲われたみたいな感じで、目を見開いて口をぱくぱくさせちゃってさ。


「ふんっ!」


 お前がやっても何も可愛くないから!

 自己愛と強欲に塗れた自己中で腹黒ってだけでも最悪なのに、さらには私のファルニクスモノに色目を使う脳内お花畑の尻軽クソビッチ。


 コイツへ課した罰である封印から解放された今は、闇堕ちしてメンヘラ属性まで持ってるくせに!

 今更そんな純粋でか弱い乙女です〜みたいな反応をされても無理だわ。


 正直イラッとするだけでうざい。

 なんていうか……目の前でぶりっ子の下手な嘘泣きを見せられてる感じ?

 というか既に属性過多なのに、ここからまだ追加属性とかいらない。


「けど……」


 クソ女神のこの恐怖に染まった瞳。

 いい……非常にいいわっ!!

 あぁ〜嗜虐心が疼く! ゾクゾクして悪魔としての本能が刺激される!!


 もっと! もっともっともっとっ!

 肉体的にも精神的にも追い詰めて……そして恐怖に顔を歪めたクソ女神を!

 絶望に魂を染め上げて無様に泣き叫び、平伏すクソ女神が見たいっ!!


『お〜い悪魔ちゃん、少し落ち着いて』


「むっ」


 ネフェリアス。


『私が保護しなかったら、この王都にいるほぼ全ての生物が、悪魔ちゃんの怒気に当てられて死んじゃってたよ?』


 ふんっ、そんな事は言われなくてもわかってる。

 そもそもこの私がそれを考慮してなかったとでも?


『考慮って……』


 ふっ! 何のためにみんなを呼んだと思っている!?


『見栄を張るためじゃないのかな?』


 はぁっ!? し、失敬なっ!!

 そんなわけないじゃん! 悪魔門で七魔公をはじめとする、みんなを呼んだのには神算鬼謀を張り巡らせての事なのだよ。


『へぇ〜』


 何その返事。

 お前、信じてないな?

 なら教えてやる! そして私の完璧な策略に敬服するがいい!!


 私の凄すぎる神気に当てられて、脆弱な人間共が死ぬ可能性が高い事は織り込み済み!

 なぜなら……悪魔族は魂の扱いに長けた種族!!


 つまり、仮に死んだとしても、みんなが死んだ者達の魂を確保してさえいれば後で蘇生する事なんて簡単な事なのだよ!!

 まぁ尤も私ならみんなが魂を保護してなかったとしても、人間の蘇生くらい簡単にできちゃうんだけどっ!


 ふふんっ! どうよ?

 この私の完璧な策略はっ! まさに神算鬼謀というのに相応しい。

 さぁ私の完璧な策略を褒め称えるがいいわっ!!


『見栄だったかはこの際置いておくして、最初から死ぬ事が前提って』


 あれ? おかしい、私の思ってた反応と違うんですけど。


『もうちょっと配慮してあげようよ』


 は? なんで私がそこまで人間共のために遠慮しないとダメなわけ?

 私はわがままで強欲な悪魔であり、傲慢な魔王様だぞ?


『はぁ……』


 むっ! 何だその反応は……


『いいや、それでこそ悪魔ちゃんだもんね。

 でも、ほどほどにね。

 あまりやり過ぎるとソフィー君が怖がっちゃうよ? さっきも怯えてたし』


「っ!!」


 確かにソフィーから怯えの感情が!


「おい……」



 ブチブチッ!



「きゃぁっ!!?」


 うるさいぞ。

 ちょっと髪の毛が引きちぎれた程度で喚くな。


「お前のせいだ」


 お前が早く答えないから、ソフィーが怖がってるじゃんかっ!!

 本当はもっともっとクソ女神を痛ぶって弄んでやりたいけど……仕方ない。


「もういい、お前が答えないなら私から言ってやる」


「ひっ……」


「お前はソフィーを……私のソフィーを殺すと宣い」


「い、いやっ……」


「私のソフィーに、殺気を向けた」


 許さない。


「離、してぇ……!」


 これ以上お前が! お前らがっ!!

 私から何かを奪う事は……絶対に赦さないっ!!!


「アナスタシア」


「っ!!」


 だからもういい。


「お前はもう……いらない」

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