第448話 教えて差し上げに

「アナ、スタシア様……?」


 跪き、頭を垂れたまま女神アナスタシアを見上げて、ミカエルが唖然と呟く。

 それはもう目を見開いて愕然と。


 さっきまでのラスボス感というか、余裕と自信に溢れる態度からはかけ離れた様子だけど……そんな反応になる気持ちもわかる。

 だって……


「うふっ、どうかしたのですか?

 私の可愛いミカエル」


 女神アナスタシアのこの豹変ぶりっ!

 急に狂ったように笑い出したと思ったら、綺麗な金色の髪が真っ黒に……それもどこか濁ったような黒に染まったし。

 なにより! 纏っている雰囲気が全く違うっ!!


 さっきまでは清廉、といえばちょっと違うけど。

 どこか神聖で澄んだ感じの、優しさを感じさせる雰囲気だったのに!

 今は邪悪というか、狂ったような狂気を感じるっ!!


 イメージとしてはさっきまでが天使で、今が悪魔って感じだけど……七魔公の方々をはじめとする、私が出会ったことがある本当の悪魔族デーモンの皆様とも違う。


「これは……」


 どちらかというと、頭のネジが外れて狂った人。

 そう、いうならば……ちょっと違うけど乙女ゲームの中の、嫉妬に狂った悪役令嬢である私に近い。


「い、いえ、ただ……」


「あぁ、私のこの姿に驚いたのですね?

 うふふっ、驚かせてしまってごめんなさい、なんでもないから気にしないでください」


「か、かしこまりました」


 いやぁ〜、さすがに気にするなってのは無理があると思うんですけど……


「ですが……ミカエル、それにウリエル、ガリエル、ファエル。

 4人とも、本当によくやってくれました」


「とんでもありませんっ!

 我らは貴女様にお仕えする者! 我らが主人にして、この世界の真なる神であらせられる貴女様を、忌々しき者共の手からお救いするのは当然の事でございますっ!!」


 おぉぅ……さっきまでは澄ました顔をして、冷たい視線で私達を見ていたクールな印象のファエルさんが、髪を振り乱して恍惚とした表情を。


「ファエルの言う通りです。

 我々は貴女様にお仕えする身、貴女様を悪き者共からお救いする事こそが我らが使命であり、宿願だったのですから」


 さすがと言うべきかなんと言うべきか、少しは女神アナスタシアの豹変のショックから立ち直ったらしい。

 落ち着いた様子ながらも、どこかファエルと同じく嬉々とした表情を浮かべるミカエルさん。


 他の二人も似たような感じだし、ぶっちゃけ親に褒められて喜んでる子供にしか見えない。

 てか! この豹変ぶりはもういいのっ!? もう納得できちゃったのっ!?


「むしろ貴女様をお救いするのに、これほどまでの時間がかかってしまい不甲斐ないばかりです……どうか! 愚かな我らに相応しき罰をっ!!」


「「「罰をっ!!」」」


 うわぁ……話には聞いてたけど、主人である女神アナスタシアに対して従順すぎるというか、天使族エンジェルって本当にこんな感じなんだ。


「そんな事を言わないでください。

 貴方達は私の大切な、可愛い子達なのですから。

 私をあの場所から救い出してくれた事に感謝こそすれ、貴方達を罰するなんてできるはずもありません」


「「「「アナスタシア様っ!!」」」」


 ええっと……なにこの状況?

 会話に割って入っていいのかな?


「うふふっ、それでは行きましょうか」


「えっ」


 行くって、どこに……


「この世界に住むすべての人々に私が……真の神が戻った事を教えて差し上げに」


「ちょっと待っ──」


 なんの予備動作も、予兆もなく本当に一瞬で掻き消えたっ!?


「うそでしょ……」

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