第444話 渡界の神儀

 ミカエルが。

 世界各地で暗躍する秘密結社である教団こと、光の使徒の10人の最高幹部。

 十使徒が1人である、敬神の称号を関する第一使徒にて……


 かつてこの世界に五柱だけ存在していた、と思われていた存在。

 天使族の頂点に君臨する3対の翼を持つ最高位天使である、六柱目にして最後の熾天使セラフィム


「では、ソフィア・ルスキューレさん。

 貴女の血をこちらに」


 今日初めて対峙した瞬間から、ずっと余裕のある態度を崩すことなく。

 動揺すら見せる事がなかった、あのミカエルがっ!

 ちょっとだけ動揺を露わにして、困惑してるけど……


「はい、わかりました」


 細かいことは気にしないっ!!

 そんな些事よりも! 今重要なのは私の血を採血した、この注射器を確実にミカエルへと手渡すこと!!


 もし仮に……そうもう仮にここで! この注射を落としてしまったりしたら……!!

 そして注射器が壊れちゃたりでもしたらっ!


 もう一回最初からやり直さなければ! 注射器でまた採血をしないとダメになるっ!!

 絶対に! 絶対に……確実にミカエルにこの注射器を渡さなければっ!!


「ふぅ……よし!」


 ゆっくり、ゆっくりと確実に。


「どうぞ」


 よし! これで今回のミッションは半ば達成したも同然!!

 だって私が差し出した注射器に、もうミカエルも手を触れてるわけだし。

 ここから取り落とすなんてことは、まずないはず!!


「え、えぇ、ありがとうござ……」


「ミカエルさん、これだけは約束してください」


 だがしかしっ! これだけは言っておかなければならないっ!!


「約束、ですか?」


「そうです」


 ここで注射器を落としたりして壊しちゃった場合以外にも、私がもう一度採血を……


「この注射器……私の血液を渡すのは、この約束をしてもらってからです」


 注射をしなければならない事態に陥る可能性が1つあるのだから!!


「貴様っ! なにを今更っ!!」


「我らが協力関係にあるからといって、少々図に乗っているようですね」


「人間風情が」


 外野の天使3人組がなんか言っているけど、そんな事はどうでもいい。

 ミカエルにはこれだけは約束してもらわないと!


「それで、約束とは?」


「絶対に……失敗しないでください!」


「は?」


 は? じゃなくてっ!


「ですから! 絶対に失敗しないでください、と言っているんですっ!!」


 もしミカエルがその儀式に失敗しちゃうと、また一からやり直さないとダメなんだからっ!!

 ミカエルにはなんとしてでも、この一回で儀式を成功させてもらう必要があるのだよっ!


「ふっ、あはっはっはっ!」


「むっ」


 失礼な、こっちは真剣なのにっ!!


「申し訳ありません。

 ですがご安心を、必ず一度で成功させて見せましょう」


「約束ですよ?」


「えぇ、約束します」


 ふむ……


「ならいいです。

 私の貴重な血液なんですから、大事に使ってくださいね」


「もちろんです。

 ご協力、感謝します」


 まっ! 私なら常人が失血死するレベルの血をなくしても、すぐに回復することができるんだけど。


「それではこれよりこの世界と、閉ざされた世界。

 2つの世界を隔てる壁を破壊し、繋ぐ儀式……渡界の神儀を開始します」


 瞬間──ミカエルの魔素エネルギーが膨れ上がり……


「擬似神能・熾天ノ王」

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