第443話 始めましょう
っと、いうわけで早速!!
「フィルっ!!」
「はいはい」
フィルが亜空間から取り出した注射器を受け取って……
「……」
「どうかしましたか?」
「嬢ちゃん?」
ミカエルとガルスさんが、不思議そうな、怪訝そうな目で見てくるけど……や、やばい!
注射器が! 注射器を持つ手が、ぷるぷる震えるっ!!
だ、だがしかしっ!
Sランク冒険者のリーダーとして、冷静沈着でクールでかっこいい孤高の悪役令嬢として!
ここで無様を晒すわけにはいかないっ!!
「なんでもありません」
「なんでもないって、血の気が引いて真っ青な顔をしてるぞ?」
「むっ!」
真っ青な顔だなんて。
それじゃあまるで私が! 人類……いや、今や全世界でもかなり上位に食い込む、実力者であるこの私が注射ごときを怖がってるみたいじゃないですかっ!!
「本当に大丈夫ですから!」
すぐに私の血を……」
ちゅ、注射器で私の血を……やっぱりムリっ!!
「や、やっぱりフィルがやって」
「はいはい」
フィルが苦笑いしてて、ルミエ様とエレンお兄様はだらしない顔をして……ミカエル達4人とガルスさんに至っては、驚いたような、困惑したような顔をしてる。
けどっ、今はそんな事はどうでもいいっ!!
「うぅ〜……い、痛くないようにしてね?」
「大丈夫だから、目をつむって向こうを向いてて」
「う、うんっ! わかったわ!!」
フィルの方に腕を出して、目をつまって……これで準備よしっ!
「じゃあ始めるよ」
「お願い!」
「術式展開……」
私のすぐそば。
フィルがなにやら魔法を展開する気配を感じて……
「はい、終了っと」
「ふぅ〜」
やっと終わった〜!!
「お疲れさま。
はい、これ」
「ありがとう、フィル。
助かったわ」
「まぁ、いつもの事だからね」
いやぁ〜、さすがは私の相棒! 頼りになるわっ!!
「こほん、そんなわけで……」
無事に注射器で採血もできたわけですし、気を取り直して!
「これで問題ありませんね?」
「ええ、問題はありませんが……」
むっ? なんでだろう?
ミカエル本人も言ってるように、これで問題はないはずなのに……なんか反応が微妙なんですけど。
せっかく長年の宿願を叶えるためのキーアイテムを手に入れたんだし、ここはもっと喜ぶどころじゃないの?
はっ! それとも、もしかして……
「ふっ」
なるほどね! ミカエルは私の、あまりに威厳に満ちた態度に圧倒され……
「なぁおい、さっきのいったいどういう事だ?」
「あぁ、実はソフィーは注射が大の苦手なんですよ」
「は?」
「っ〜!?」
ちょっ! フィルさんっ!?
なにを口走って……!!
「三大学園でも毎年、健康診断がありますよね?」
「あ、あぁやってるな」
「その中に採血もありますが、いつも怖がって全力で抵抗……と言っても暴れるわけではなく、魔力で防御して注射針が刺さらないようにするだけですけど。
とにかく対抗して誰もソフィーの採血ができないので、いつも僕がやってるんですよ」
いやそうなんだけど! その通りだけども!!
本当になに言ってくれてんのっ!?
「マジかよ……嬢ちゃんは普通に俺でも死ぬ、
やめて! ガルスさんも、ミカエル達もそんな唖然とした顔でマジマジと見ないでっ!!
「さぁ! これで準備は整いましたよね!?」
「えぇ……」
「なら始めちゃってください!!」
お願いだからこのなんともいえない微妙な、気まずい空気をぶち壊してっ!
「わ、わかりました。
それでは始めましょう」
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