第391話 入国

「それで? グランはどうしてここにいるのかしら?」


 呼び捨てっ!!

 いやまぁ、ルミエ様は魔法神ティフィア様の娘なわけだし、立場いうと神の国の王女様だし。

 魔法神様の執事様であるグラン様を、呼び捨てにしても全く不思議じゃないんだけども!


「それはもちろん、皆様をお出迎えに来たからですよ」


「あら、その必要はないって言ったのに。

 私がいれば問題ないでしょう?」


「確かに姫がご一緒ならば、入国自体は問題ありませんが……そういうわけにもまいりません。

 自力でこの海を踏破し、ここまで辿り着いた方は、国のお客様でもあるのですから」


 なに? どういう事?

 なんの話をしてるんですかっ!?


「それよりも! 姫」


「な、何よ?」


「先程は皆様を連れてくるから、歓迎の用意をするようにと告げるだけ告げて突然転移なさいましたね?

 何度も言っていますが……要件を言うだけでいって、転移で移動するのはおやめください」


「それは……」


「もう少し、何名いらっしゃるのか、どの程度の規模で歓迎を行うのかなど。

 報連相をしっかりとしていただきたい」


「わ、悪かったわよ。

 これからは気をつけるわ」


 おぉう、あのルミエ様がタジタジになってる!!


「はぁ、本当に細かいんだから」


「おや、何かおっしゃいましたか?」


「いいえ、何も。

 でも貴方がわざわざ出向かなくてもよかったのに」


「私はお嬢様にお仕えするただの執事ですので、皆様をお出迎えするのは当然でしょう」


「何が当然よ、貴方はお母様直属の七眷属が一柱ヒトリ、古竜王グラン。

 貴方がただの執事なわけないでしょ、どうせソフィー達を早く見たかっただけでしょう?」


 な、なに! 七眷属? 古竜王? グラン様っていったい……


「いえいえ、そんな事はありませんよ?

 彼らは……少し可哀想ですが、ご本人の意思に関係なく将来が決定されし者。

 私が出向くのは当然でしょう」


 へっ? 将来が決定??


「はぁ……まぁいいわ。

 そういう事にしておいてあげる」


 あのぉ、ルミエ様?

 もう何が何やら、わけがわからないんですけど……


「こほん、それでは改めまして、ようこそお越しくださいました。

 皆様方を歓迎します」



 パチンッ!



 さっきと同様に完璧な所作で、優雅に一礼して見せたグラン様が軽く指を打ち鳴らした瞬間──


「っ!!」


 甲板にいた殆ど全員が。

 グラン様とルミエ様をはじめ、ガルスさんとフィルの4人以外の、私も含めたSランク冒険者の全員が息を呑んだけど……それも仕方ないと思う。

 だって……


「では、こちらからお進みください」


 さっきまでは何もなかったはずなのに! 突然、光り輝く光の壁が現れて!!

 その光の壁の一部が、空気に溶けるように消滅したんだもんっ!!


「そうですね、皆様に上陸していただくのは……南西の四大都市、竜都ドラゴニアに港があります。

 まずはそこまでご案内いたしますので、そこから上陸していただきたいのですが、よろしいでしょうか?」


「は、はい、それでお願いします」


 つ、ついに! 伝説の楽園に!!

 御伽話に語られる、魔法神ティフィア様が治める神の国に……入国しちゃったっ!!

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