第388話 発見

「っと!」


 一瞬で視界が王都の公爵邸にある私の部屋から、遥かなる大海を航海している我らが船!

 マスが管理してくれている戦艦の船内に存在する、慣れ親しんだ会議室へと切り替わり……


「ふぅ〜」


 息を吐きながら、力を抜いて自分の椅子に座り込む。

 助かったぁ〜! いや本当に素晴らしい、ナイスタイミングだったわ!!

 おかげで目をギラつかせた、ファナから逃げる口実ができた。


「おっと、お早いご到着で、船長殿」


 会議室の扉を開けて入ってきたのは……アッシュグレーの髪に、淡い緑の瞳をした人物。

 Sランク冒険者が一人、〝流雲〟ことロイさん。

 ロイさんは今日の船番だった訳だけど……


「むっ」


 ニヤニヤと揶揄うような笑みを浮かべながら、わざとらしい貴族っぽい一礼をしちゃって。

 だが残念っ! ドロドロした貴族社会を生き抜く私を揶揄おうなんて、10年早いのだよ!!


「ふっ、15位のくせに」


「ちょ! それは言いっこなしだろ!?」


 むふっ、むはははっ! ロイさんの弱点は熟知しているのだよ!!

 いつもいつも、事あるごとに私を揶揄ってくるけど……今日も私が勝つ!!


「だって事実でしょ?」


「いやそうだけども!

 そもそも! 俺は真正面からの戦闘には向いてねぇの!!」


 まぁ……それは、うん。

 確かにロイさんの戦い方は、死角から一撃必殺によるヒットアンドアウェイ。


 目の前にいてもスルスルっと、敵の間をすり抜けたり。

 まさに〝流雲〟の二つ名の通り、流れる雲みたいに掴みどころのない戦闘スタイル。


 集団戦とか、暗殺とかだったら非常に活躍するけど、一対一のトーナメントじゃあその本領は発揮できない。

 まぁ、それでも規格外のSランク冒険者なわけだし、強いのは間違いないんだけども。


 事実として、Aランク冒険者が相手なら一対一は当然として、Aランク冒険者のパーティーを相手にしても圧勝できるだろうし。


 でも……同じ規格外たるSランク冒険者が相手だと、そうもいかない。

 そんなわけで、ロイさんはSランク冒険者非公式ランキングで最下位たる15位に甘んじてるわけだけど……


「ふはっはっはっ〜! 負け犬の遠吠えですね!!」


「ぐっ……」


 ふっ、勝ったな。

 四つん這いになって項垂れるロイさん。

 堂々と椅子の上に立って、右足を円卓に乗せてそんなロイさんを見下ろす私!


 誰がどうみても、勝敗は明らか!

 ロイさんも、まだまだ詰めが甘い。

 いっつも私を揶揄おうとしては、返り討ちにされてるわけだけど……今回も私の勝利っ!!


「こほん! それで、負け犬ロイさん」


「負け犬言うな」


「イヴさんはどうしたんですか?

 今日はイヴさんと一緒に当番でしたよね?」


「イヴならもうすぐ……」


「はぁ……まったく、ロイも懲りないですね」


「イヴさん!」


「ふふっ、ソフィーさん、こんにちは。

 ほら、ロイもいつまでもそうしてないで席について、もうすぐ皆集まりますよ」


 っと、そうだった。

 今はロイさんの相手をしてあげてる場合じゃない! 全員を招集するなんて、並大抵の事じゃない。


 まぁ、ここは人の領域から大きく離れた、人外魔境たる大海原!

 何があってもおかしくはないし、こうして全員に緊急招集がかけられるのも珍しくはないんだけど……


「それで、緊急事態って何があったんですか?

 見たところ、そこまで慌ててる様子もありませんけど……」


 ロイさんとイヴさんは至って落ち着いてるし、みんなを緊急招集するほどの緊急事態が発生してるとはとても思えないんだけど。


「実は……詳しくは全員が集まってから説明しますけど、見つかったんですよ」


「見つかった?」


「えぇ、我々の目的。

 2年以上に渡って探し続けてきた、伝説の大地と思しき場所を見つけたんです」


「えっ……」


 私達の目的。

 伝説の……


「えぇぇぇっ〜!!?」

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