第22章 神の国編

第387話 今しかないっ!

 ふかふかで、座り心地抜群なソファーに座り。

 優雅に足を組んで、ゆったりと寛ぎながら……


「う〜ん……」


 私は今! かつてないほどに重大な悩みに直面していたっ!!

 っと、ちょっとナレーションみたいに内心で言ってみたけど、やっぱりいい案が何も思いつかないぃっ!!


「お嬢様、何か悩み事ですか?」


「ファナ」


 ニコニコといつも通りの、優しい笑顔を浮かべながらファナが淹れたお茶が置かれる。


「ありがとう」


 どこまでも優雅かつ美しく!

 洗練された完璧な所作でティーカップを持ち上げて……一口。


「ふぅ」


 やっぱり、ファナの淹れてくれたお茶は美味しくて落ち着くわ〜。


「実はね……ほらこの前、ルイーナを倒しちゃったでじょ?」


「えぇ、何でも獣魔王レオン陛下の一撃で、跡形もなく消滅したとか」


「うん」


 カリンさんが拉致されて、カリンさん救出のためにルイーナやピア、シュティル達と戦った日から早半年以上。

 明日から春休みも終わって、新学期が始まるわけだけど……


 問題なのは! あの時、レオン陛下がルイーナを消し飛ばしちゃったという事実!!

 そもそも私達がレオン陛下を訪ねた理由は、犯罪組織である影の騎士シャドウの背後にいる魔王を突き止めるため。


 まぁ、それはルイーナの諸々の発言。

 それに捕らえたシュティルから聞き出した情報によって、影の騎士の背後にいた黒幕は灰燼の魔女ことルイーナだった事がわかってるんだけど。


 その当人たる、ルイーナはレオン陛下によって跡形もなく消滅させられてもういないっ!!

 つまり! 乙女ゲームでは本当のラスボスだった、魔王が存在しないという事っ!!


「魔王は……ルイーナはラスボスだったのに、どうすれば……」


 ここ半年ほど、エマは必死にイベントをこなそうと、それはもう涙ぐましい努力をしていた。

 けど! 敵の黒幕たるルイーナがいなくなった事で、大きなイベントは発生せず……


「もし、もしエマがセドリックを攻略してくれなかったら……セドリックから婚約を破棄されなかったら……うぅ」


 背筋にいやな寒気が! 鳥肌が!!


「心配しなくても大丈夫ですよ。

 お嬢様が婚約を破棄されるのは、学園の卒業記念パーティーなのですよね?」


「うん……」


 タイムリミットまで、もう1年を切ってる。

 それまでにエマがセドリックを攻略してくれないと……


「彼らが魔王と戦うのは、お嬢様との婚約を破棄したあとの事。

 大勢の前でお嬢様を貶める愚行は許せませんが……黒幕である魔王が不在でも、きっと大丈夫ですよ!」


「そ、そうかな?」


「えぇ、そうですよ!

 それに、今でも彼らは順調に仲を深めているのですよね?」


「うん」


 それはもう、学園でも学園の外でも、ところ構わずにラブラブイチャイチャしてる。


「きっと大丈夫だとは思いますが……最悪の場合は、こちらから王子の有責で婚約を破棄してやればいいのです!!」


「う、うん! そうだよね!!」


 ところ構わず、ずっと友人以上の距離感でイチャイチャしてるんだもん!

 もしもの時はセドリックの責任で婚約を破棄すれば問題ない……?


「ファナ、ありがとう。

 気が楽になったわ」


「ふふっ、お役に立てたようで何よりです」


 悩み事も解消はしてないけど、対処法の目処が立った事ですし!

 ゆっくりとリラックスして……


「さて、お嬢様」


「ファ、ファナ?」


 な、なんか目が、優しく微笑んでるはずの目が怖いんですけどっ!?


「ルーとミネルバ様もお待ちになっている事ですし、準備を始めましょう」


「じゅ、準備って……」


 そういえばミネルバもルーがいないなぁ〜っとは、思ってたけどまさか裏でそんな事をしていたなんて!!


「当然! 明日の始業式の準備です!!

 お嬢様の専属の名にかけて! しっかりと磨き上げらせていただきます!!」


「そ、そんな大袈裟な」


 まずい! これまでの経験上、このままでは延々とファナを筆頭とするメイド軍団のお人形になる事となる!!

 何とかしてこの場から逃げなければ!


「いいえ! 大袈裟なんてとんでもない!!

 お嬢様は明日の始業式で、代表挨拶をなさるのですよ?」


「で、でも、その、えっと……ほら! 今はちょっと忙しいし!!」


「本日は何の予定もなかったと記憶しておりますよ」


「うっ……」


 ど、どうし──



『緊急事態だ! 今すぐ全員、船に来てくれ!!』



「っ!!」


 今しかないっ!


「っという訳だから、ちょっと言ってくるね!」


 転移魔法……発動っ!!

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