第382話 心配

 平然と。

 堂々と。

 当然のような顔で、余裕のある好戦的な笑みを浮かべて……この場に佇む人物。


「どうして死んだはずの貴方が、ここにいるのかしら?

 レオ……」


「レ、レオン陛下っ!?」


 なんで! ど、どうしてっ!?

 レオン陛下はピアの相打ちで、殺されちゃったんじゃ……どうしてここに!!

 というか生きていたのっ!?


「えっ! えっ!?」


「はい、どうどうどう。

 ソフィー、とりあえず落ち着こうか」


 落ち着こうかって!


「でも! だって! フィルっ!!」


「うんうん、ソフィーがびっくりするのもわかるよ?」


 わかるよって、逆になんでフィルはこんなに平然としてるわけっ!?


「でも、まずは深呼吸しようか。

 戦場で取り乱すなんて、命取りでしょ?」


 た、確かに。

 それはフィルの言う通りだ。


「わ、わかったわ」


 と、とりあえず一旦落ち着かなきゃ!


「すぅ〜はぁ……」


 よし!


「では、改めて……どうしてレオン陛下がここにっ!?」


 フィルの回復魔法ですら効果がなかったし、レオン陛下は確かにピアに殺されたはずなのに!


「本当に……貴女達はどれだけ、私をイラつかせれば気が済むなのかしら?」


「へ?」


 あ、あれ? なんかさっきよりルイーナがご機嫌斜めに。

 ピクピクって眉を動かして、こめかみに青筋を浮かべていらっしゃる。


「あっ」


 そ、そう言えば……さっきルイーナもなにか喋ってたような……


「ね、ねぇ、フィル、もしかして……」


「うん」


「っ〜!」


 わ、私とした事がぁっ!!

 さっきフィルに呆れたばっかりなのに、まさか! まさかこの私が同じミスをしてしまうなんてっ!!


 やってしまった!

 ど、どうしよう? とりあえず……ここは謝っておいた方がいいのかな?


 で、でも! さっきのは仕方なかったと思うのだよ!!

 だってだって! ピアに殺されちゃったはずのレオン陛下が、いきなり現れたんだし!!


「うん」


 私は何も悪くない!!

 というか、そもそもルイーナは敵だし! 私が謝る必要は皆無といえる!!


「こほん、それで……レオン陛下、ご無事だったんですか?」


「クックック、流石というかなんというか……」


 えっ? な、なに?

 なんか面白がるような目で、レオン陛下に見られてる気がするんですけど……


「まぁ見ての通りだ。

 俺は魔王が一柱ヒトリにして獣王国を統べる王、あの程度の事で死ぬわけねぇだろ?」


「で、でも確かにあの時……」


「ちょっと死んだフリをしたんだよ。

 ほら、ちゃんと足もあるぞ?」


 いやまぁ、うん。

 それはもう、しっかりとした足がありますね。


「って、そうじゃなくて!

 なんで死んだフリなんか! 心配したんですからねっ!!」


「悪い悪い。

 ちょっと確認したい事があってな」


「確認……?」


「そのおバカは、ソフィー達の実力を見たかったのよ」


「っ! ルミエ様っ!!」


「ふふっ、遅くなったわね。

 ソフィー、怪我はしてない?」


「はい!

 ルミエ様も大丈夫でしたか? 遅かったから、ちょっと心配だったんですよ?」


 いやまぁ、ルミエ様ならなんともないとも思ってたけども。


「ふふっ、ごめんね。

 ちょっとこの城の最上階にいたカリンを助けに行ってたのよ」


「えっ?」


 ルミエ様、今なんと?


「ほら、カリン。

 そんな所でモジモジしてないで、こっちに来なさい」


 ルミエ様に言われて、ひょこっと扉の影から顔を出すケモ耳美少女!


「なっ!?」


 ルイーナが目を見開いてるけど、そんな事はどうでもいい。


「う、うん……えっと、こんにちは?」


「カリンさん……」


「ひゃっ! い、いきなりどうしたのよ!?」


 急に抱きついちゃったのは申し訳ないけど、仕方ないよね。

 だって……だって!


「めちゃくちゃ心配したんですからっ!!」


「……もう、仕方ないわね」


 カリンさん、本当に、本当に! 無事でよかった……!!


「彼女は確かに結界で厳重に閉じ込めていたはず……いったいどうやって?」


「ふふっ、あの程度の結界を私が破れないはずがないでしょう?」


「っ! 貴様っ!!」


「ふんっ、こうしてカリンも助け出したんだし……レオン、早く終わらせてくれるかしら?」


「ったく、娘を助けるっていう父親の役目を奪いやがって」


 憤るルイーナを鼻で笑ったルミエ様の言葉を受けて、レオン陛下が苦笑いを浮かべ……


「はぁ……仕方ねぇな、早々に終わらせて帰るとするか」


 凄まじい覇気が! 重圧が解き放たれた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る