第376話 不意打ち

 まさに圧倒的。

 これが魔王! これが獣魔王レオン陛下! これが不可侵存在だとされる、八魔王の……いや、真の魔王たる六魔王の、本当の姿っ!!


「ふふっ……」


 本当に……頂は果てしなく遠いわ。

 強くなっても、強くなっても、次々とさらに上のレベルが出てくる。


 強くなればなるだけ、頂点が遠くなる。

 いや、遠くなるというより……頂が果てしなく遠いって事実が、現実が理解できてしまう。


「ソフィー、どうかした?」


「ううん、ちょっとね」


「まったく……レオンのヤツ、ここには私達もいるって事を忘れてるんじゃないかしら?

 ソフィーを怖がらせるなって、言ってるのに」


「ちょっ! ルミエ様っ、別に怖がってるわけじゃないですからね!?」


 確かにレオン陛下から立ち昇る膨大な魔素エネルギーも、存在感プレッシャーも。

 そして……この凄まじい魔王覇気も! 本当に凄いし、鳥肌が立ったけど……


 別に怖がっているわけじゃない!

 ただちょっと頂の果てしなさを感じて、ちょっと感傷的になっただけで、最強という長年の夢を諦めたわけでもないのである!!


「ふふっ、恥ずかしそうに焦ってるソフィーも本当に可愛いわ〜」


「ル、ルミエ様……」


 もう、こんな状況なんだから、もうちょっと緊張感を持ってくださいよ。

 いやまぁ、下手に緊張しすぎちゃうよりも、いつも通りの自然体の方が遥かにいいんだけども。


「ったく、お前らなぁ……俺が言うのもなんだが、仮にもここは戦場だぞ?

 それも魔王同士が向かい合ってる場だ、もうちょっと緊張感を持てよ」


 ほら! レオン陛下も苦笑いで、呆れちゃってるじゃないですか!!


「あらレオン、私達の事を覚えていたのね。

 てっきり熱くなって、私達の事を忘れていると思っていたわ」


「お前なぁ、俺の事をなんだと思ってんだよ?」


「えっ、おバカな戦闘狂じゃないのかしら?」


「「「……」」」


 ルミエ様、それは流石に……いやまぁ、確かにさっきはそれはもう楽しそうに笑ってたし、ぱっと見のイメージが戦闘狂って感じなのは否定できないけど。


 レオン陛下は魔王の一柱ヒトリである以前に、獣王国ビスバロニスの国王様だし。

 おバカな戦闘狂って評価は、失礼すぎると思うんですが……それに……


「フフッ、ウフフ……私を、私達を前にして、呑気にお喋りだなんて、随分とナメられたものね」


「まったくですよ。

 確かに獣魔王レオンの力は想定以上でしたが……それでも我々3人を前にこの態度。

 これが愚かな魔王の傲慢というやつでしょうか?」


 ルイーナとシュティルが苛立ちを隠そうともせずに、青筋を浮かべてるけど。

 ここは敵地で! 今はこの2人との戦闘の真っ只中!!

 こんな話をしている場合じゃ……


「ん?」


 ちょっと待って、シュティルは今なんて言った?

 我々3人を前に? シュティルとルイーナの2人じゃなくて……


「はぁ……まぁアイツらの言う通りだな。

 ルミエ、その話は後でじっくりと語り合うとして」


「は? 嫌よ。

 どうして貴方と一緒にそんな事をしなきゃダメなのよ? 私には可愛いソフィーを見守るという大切な用事があるの、そんな事をしている暇はないわ」


 ル、ルミエ様ぁ〜!!


「……とにかくだ、今は」


「うふっ!」


 レオン陛下の言葉を遮って、聞き覚えのある笑い声が聞こえ……



 ドシュッ──!!!



「えっ……」


 いきなり天井からレオン陛下の背後に降ってきた少女が……背中からレオン陛下の胸を貫手で貫いて……


「ッ〜!!」


 避けられた!?

 咄嗟だったとはいえ、並の者なら認識すらできない速度での抜刀なのに……いや、それよりも今は!


「レオン陛下っ!!」


「ガフっ……くそっ、油断、した……」


 レオン陛下の顔が歪み……胸から血を撒き散らしながら吐血する。


「うふっ! はぁ〜い、これで1人死亡で〜す!!」


 楽しそうな声が鳴り響く。


「それにしても久しぶりですねぇ〜! 会いたかったですよぉ、ソフィーちゃん!!

 私の事、覚えていますかぁ〜?」


「第七使徒……慈愛のピア」


「正解でぇ〜す!」


 なんで、ピアがここに?

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