第374話 スパイ
この人……声からして、たぶん男の人だろうけど。
いきなり湧いて出て、攻撃してきたこの男が身に纏っている純白のローブ。
うん、非常に見覚えがあるわ。
「あなた……教団の人間ですね?」
「っ! クフフッ、まさかこうも簡単にバレてしまうとは……その通りですよ、特異点たる愛子! ソフィア・ルスキューレ!!」
まぁ……今更だし、教団の連中に私の正体がバレちゃってるのはいい。
今はSランク冒険者、白銀のソフィーとして動いてる時に愛用してる仮面もつけてないし。
「う〜ん」
けど……この声。
なんか聞き覚えがあるんだよな〜。
「私の名前は、シュティル・ベラン」
ベラン?
「この世界を真の姿へと導く、世界中で最も崇高な組織……光の使徒が最高幹部。
十使徒が第八使徒、沈黙の称号を冠する者ですよ」
「ベラン……というと」
「まさか……」
当然、フィルも気づくよね。
「えぇ、いかにも! 3年前にソフィア・ルスキューレ。
特異点たる愛子である、貴女が殺した第九使徒! 忍耐のペルセ・ベラン。
私がやつの、愚弟の実の兄です」
そりゃあ声に聞き覚えがあるのも納得だわ。
まさかオルガマギア魔法学園で、生徒失踪事件を引き起こし、学園の地下にある八大迷宮・大罪にて、ベル様の怒りに触れて倒されたペルセ・ベランの実の兄だなんて。
「なんだ、知り合いか?」
「いえ、知り合いというわけではないのですが……かつてあの人の弟と戦った事があるというだけです」
「そうか、なら遠慮なく叩き潰しても、なにも問題ねぇな」
「もちろんです」
けど……私が殺した第九使徒って。
ペルセ・ベラン、アイツを倒したのは私じゃなくてベル様なのに、教団はその事実を知らない?
それとも、私達にそう思わせるためのブラフ?
ブラフだとしたら、それにいったいどんな目的が?
やつらにメリットがあるとは思えないけど……
「いや」
ちょっと待てよ、さっきアイツはなんて言った?
この世界を真の姿へと導くとか言ってなかったっけ? そうなると、もしかして……
「まさか」
教団……光の使徒の目的は、世界征服?
もしくは400年前の聖魔大戦のような、世界規模の戦いを想定しているんじゃ……
だから私達の計算を狂わせるために、わざとベル様達の事を。
七魔公という強大な戦力の事を、知らないふりをしている?
「しかし光の使徒、ねぇ……テメェがここにいるって事は、ルイーナのやつもお前らのお仲間って事でいいんだよな?」
「クフフッ! いかにも、彼女は我らが同志です」
「っ!!」
魔王ルイーナが……ナルダバートに続いて、ルイーナも教団のメンバーっ!?
「大方、俺ら魔王の内情を探るために潜り込んだスパイってところか」
「御明察! いやはや、流石は魔王レオン様、聡明であられる。
灰燼の魔女ルイーナと、10年前にこれまた特異点たる愛子である貴女に殺された魔王、不死の呪王ナルダバート。
この2人は我ら光の使徒が、魔王のいう一大勢力の内情を探るために貴方達の懐に潜り込んだ我らがスパイだった、というわけですよ」
ウソでしょ……
「マジかよ、アイツ……」
レオン陛下もそりゃあ驚くよね。
だって八魔王のうち、新しく魔王となって二柱が教団のスパイだったんだから。
「邪魔で忌々しい魔王共の凡その実力は、既に把握済みです。
よって! もう、潜伏している必要がなくなった。
今回の強行に打って出たのには、こういった理由もあるのですよ」
「ヤベェな」
そうですよね。
だって、レオン陛下達の実力は敵にバレちゃってるわけだし。
こうやって私達の前に出てきてるって事は……
「クフフッ! 流石の魔王レオンも、恐怖を感じているようですねぇ?
その通り、貴方達にはもはや勝ち目はない!!」
勝算があるって事だもん。
「投降でもしますか?
魔王の一角がみっともなく投降して命を乞う! それも面白いかもしれませんねぇ!?」
「っ〜!」
こいつ……!!
「尤も……投降なんて、私が許しませんがっ!!」
スゥっと、闇に溶けるようにシュティルの姿が掻き消える。
「クフフッ! 貴方達はここで、この私の手によって殺されるのですよ!!
さぁ! せいぜい無駄な抵抗をして、私を楽しませっ……!!」
姿を隠し、何処かからか饒舌に話していたシュティルが、その光景に……一瞬で消し飛び、空が覗く天井を見て、息を呑んで押し黙る。
「フッ、ククッ、クハッハッハッ!!」
圧倒的な覇気を、
「それで……誰の実力を把握済みだって?」
スッと一点を。
姿は見えないけど、そこにいるだろうシュティルを鋭く見据えて、不敵な笑みを浮かべた。
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