第369話 そんなの決まってんだろ?
「ったく、誰の仕業かは知らねぇが……俺の娘を拉致するとは、やってくれるじゃねぇか」
「ちょ、ちょっと待ってください!」
「どうした?」
「カリンさんを拉致したのが魔王の誰かって、いったいどういう事ですか!
どうしてそう言い切れるのでしょうか?」
「簡単な話だ。
俺の支配領域であるこの国で、それもこの王城から転移魔法を用いてピンポイントで誰かを拉致できるやつなんて殆どいない」
「それは、そうですけど……」
確かにこの厳重な警備がされている獣王国の王城から、ターゲットをピンポイントで拉致するなんて並の存在じゃあできっこない。
「ですが、魔王以外にもできる人はいるんじゃ……」
例えば……あり得ないけど、大賢者であるマリア先生なら不可能じゃないだろうし。
やろうと思えば、たぶん私でもできる。
「簡単な話だ。
この城で転移魔法なんて使えるヤツは、魔王連中しかいねぇ」
「で、でも! 私は使えますよ?」
「あ〜……まぁなんだ。
お嬢ちゃんは特別なんだよ、本来ならこの城内で転移魔法を使えるのは魔王のみ。
あとはごく一部の例外を除いて、ルミエですら転移はできねぇ」
「ルミエ様も……」
そう言われてみれば、確かにこの国に来た時もルミエ様はこの王城どころか外壁の外に転移してた。
いつもなら確実に、王城に直接転移してるはずなのに……
「ふふっ、非常に遺憾だけれど、レオンの言っている事は事実よ」
「マジですか……」
と言うことはつまり、このお城で転移魔法を使った拉致なんて真似ができる人はかなり絞られる。
それこそレオン陛下が言ったように、魔王の誰かってくらいに。
「しかし……クックック、俺の娘に手を出すなんて、俺も随分となめられたもんだなぁ」
「「ッ〜!!」」
レオン陛下から放たれるこの威圧感……さっきのなんちゃってとは明らかに違う。
背筋がゾッとするような、それでいて全身の血が沸騰するような。
圧倒的な存在感に呑み込まれるようなこの感覚。
これがレオン陛下の……八魔王が
「それも俺の支配領域の最奥たる、この場所で……クックック、あぁ本当に。
本当にここまでコケにされたのは久しぶりだぜ」
「レオン、魔王覇気が漏れ出ているわよ」
「っと、悪い悪い」
「「ふぅ……」」
一気に押し潰されそうな重圧が掻き消えた。
「まったく……さっき注意されたばかりでしょうに、何をやっているのよ」
本当ですよ!
そりゃあ私達は常人なら即死するような、魔王覇気を真正面から受けてもなんともないけど。
それでもビックリするのはビックリするんだから!!
「しかし、魔王が相手となるとマズくないですか?」
仮に今回のカリンさん拉致事件の犯人が魔王の誰かだとすると、それは獣魔王レオン陛下に喧嘩を売った事に他ならないわけで……
「まぁ、こっちはカリンを拉致されてるわけだしな、これは俺た対する立派な宣戦布告。
普通に考えて、俺ともう
「ですよね!?」
それはヤバい! マジでヤバいっ!!
強大な力を有する魔王同士の戦争とか、400年前の世界を巻き込んだ聖魔大戦とまではいかないまでも、大陸全土に影響を及ぼす大事件じゃん!!
「まぁ、俺としても戦争するのは本意じゃねぇが……カリンが拉致されている以上、俺が引くわけにはいかねぇんだわ。
それに戦争は回避したとしても、落とし前はつける必要がある」
そりゃあまぁ、レオン陛下は獣王国ビスバロニスを統べる獣王であり、八魔王の一角たる獣魔王ですし。
レオン陛下が引けないのもわかるけど……ど、どうしよう?
魔王間の戦争なんて、ヤバい事になってきちゃった。
とりあえず冒険者ギルドの
う〜ん、まぁなんとかなるかな?
向こうからなんらかの要求をしてきたら話は別だけど、それならわざわざカリンさんを拉致するなんて周りくどい事をせずに、普通に宣戦布告すればいいわけだし。
現状、魔王の誰かの仕業って事がわかっても、カリンさんを拉致するのに使った転移魔法は辿れない。
よって誰の仕業か特定するまでは、多少の時間がかか……
「ったく、あの野郎……魔王の役割を理解してんのか? 俺達が戦争なんて本末転倒だろうが」
えっ?
「ちょ、ちょっと待ってください!
その口ぶりだと、心当たりがあるように聞こえるんですけど……」
「恐らくだがな」
「心当たり、あっちゃうんですか!?」
「あぁ、カリンを拉致しやがったのは十中八九あの女、灰燼の魔術師ルイーナだ。
他の連中は、こんな事をしでかすほどバカじゃねぇ」
「灰燼の魔術師ルイーナ……」
以前、リアットさんを狙ってたあの……
「さてと、それじゃあ行くとしようか」
「へ? 行くってどこにですか?」
「クックック、そんなの決まってんだろ?
ルイーナの所にだよ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます