第368話 犯人は……

「カリンさんが、拉致された……?」


 えっ、ちょっ、ちょっと待って!

 だってついさっきまで、数分前までここに一緒にいたのに……


「ッ〜! 本当に緊急事態じゃないですかっ!!」


 それも、ただの拉致じゃない。

 ここは八魔王が一角でもある獣魔王レオン陛下がいる、獣王国ビスバロニスの王城。


 獣王戦士団の戦士達はもちろん、魔法による結界も当然施されていて警備は厳重。

 そんなお城の中で、それもレオン陛下の娘であるカリンさんを拉致するなんて!!


「早く助けに行かないとっ!」


「お嬢ちゃん、落ち着け」


「で、ですが!」


「お嬢ちゃん」


「っ……」


 レオン陛下から放たれる、この圧倒的な存在感。

 これが獣魔王レオン陛下の威圧……


「ふぅ〜」


 私としたことが、カリンさんが拉致されと聞いて冷静さを欠いちゃってたわ。

 でもレオン陛下の威圧のおかげで、もう頭は冷えた。


「すみません、少し取り乱しました。

 もう大丈夫なので、その威圧を止めてください」


「おう、それはよかったぜ」


 自分の愛娘が何者かに拉致されたというのに、レオン陛下のこの余裕。

 これが大人の、絶対的強者の余裕というやつか……私も見習わないと!


「はぁ、まったく……娘が拉致されて焦ってるのはわかるけれど、魔王ともあろう者が安易に魔王覇気なんて使わないでくれるかしら?」


「え?」


 ルミエ様……?


「あはは……まっ、そういう事だよ。

 レオン様は優しい方だし、愛娘を拉致されたと聞いて焦らないわけがないからね」


「フィル……」


 でもまぁ、そうか、そうだよね!

 表面上は落ち着いてるように見えても、愛娘が拉致されて落ち着いていられる父親なんて殆どいないと思うもん。


 お父様なら……私が誰かに拉致されたなんて聞いたら、まず間違いなく取り乱すだろうし。

 レオン陛下もカリンさんが心配で、焦ってるのが普通だよね。


「お前らなぁ……別に焦ってるわけじゃねぇぞ?

 ちゃんと出力も抑えたし、お嬢ちゃんを落ち着かせるのはアレが最適だと判断しただけで……はぁ、まぁいい。

 それで、詳しく報告しろ」


「はっ! 現場を目撃した者によると、訓練場でお待ちしておられた団長方……妃殿下の元へ向かっていたカリン様が、突如として転移魔法で転移したと」


「それで?」


「現場の検証の結果、魔力の残滓から転移魔法が使われたのは間違いありません。

 しかしながら、巧妙に隠蔽されていたようで、我々では転移先を特定する事は不可能でした……」


「そうか、報告ご苦労。

 下がっていいぞ、他に何かわかった事があったら報告してくれ」


「はっ! 御前、失礼致します!!」


 ビシッと一礼して戦士さんが去って行ったけど……今の報告によると、カリンさんが転移魔法を用いて拉致された事以外には何もわかってないわけで。

 さて……どうしたものか。


「チッ、面倒な事になったな。

 カリンを拉致したのは、魔王の誰かだ」


「えっ……」


 レオン陛下、それっていったい……

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