第367話 事件

「さて、それじゃあ改めてなんの要件か聞こう」


 獣王国ビスバロニスを統べる王にして、八魔王が一柱ヒトリである獣魔王レオン陛下の末娘。

 ケモ耳ツンデレ美少女こと、カリンさんとの決闘から一夜。


 昨日のクッションが沢山ある部屋にて、黄色の巨大クッションに身を沈めたレオン陛下が顔の前で手を組み、真剣な面持ちでそう切り出し……


「と、言いたいところなんだが……カリン、なんでお前までここにいるんだ?」


 私の方……正確には私の隣で私にピッタリとくっついているカリンさんを見て、頭痛を堪えるようにこめかみを抑えながらため息をつく。


「あらお父様、そんなの決まっているじゃないですか!

 それは……そ、それは、ソフィーが、私のと、友達だからよっ!」


「っ〜!!」


 あぁ〜! もう、なんて可愛いのっ!!

 恥ずかしそうに顔を真っ赤に染めて、プイっとそっぽを巻きながらも耳と尻尾をピンと伸ばして友達と宣言!!


 それでいて、私にピタッとくっついて離れないカリンさん!!

 これぞ、ケモ耳ツンデレ美少女の本領っ! なんという破壊力っ!!


 昨日の決闘は結果だけを見れば、私の圧勝で終わった。

 でもそこには言葉だけじゃなく、ぶつかり合う事で生まれた絆みたいなものもあって。

 昨日の夜に私が泊まってる部屋に、カリンさんが訪ねて来たわけだけど……


 自身が認めた、懐に入れた相手に対してカリンさんが見せるデレが可愛すぎてツライっ!

 昨日からずっと誘惑に抗って我慢してたけど、このモフモフなケモ耳と尻尾をモフりたいっ!!


「ん、カリンも可愛い。

 私の、お気に入り」


「レ、レフィー様っ!!」


 レフィーちゃんっ!

 わ、私の膝の上でふんぞり返って……膝の上にはレフィーちゃん。

 隣にはレフィーちゃんの言葉に感動してるカリンさん。


 昨日の夜にレフィーちゃんの可愛さとか、色々と語り合ったし。

 カリンさんがレフィーちゃんを、心底慕ってる事も知ってる。


 だからこそ、レフィーちゃんに気に入られている私を見て嫉妬して敵視したらしいんだけど。

 とにかく! カリンさん、本当によかったね! でも、それはそれとして……


「よしよし」


 やばい、なにこの状況っ!

 嬉しそうに尻尾を振るカリンさんと、そんなカリンさんの頭を撫でてあげるレフィーちゃん。

 今は私の理性を試すための試験中かなにかですか!?


「はぁ……話が進まないどころか、始まりすらしねぇ」


「まぁ、仕方ないわよ」


「あはは……」


 なにやらレオン陛下とルミエ様とフィルが喋ってるけど、内容がまったく頭に入ってこない!

 くっ、これが可愛いとモフモフの誘惑……!!


「なぁお嬢、しなきゃならねぇ事があるじゃないのか?」


「ん、でも後でやるから問題ない」


「後で、ね……まぁ、お嬢が怒られてもいいなら、別にいいんだけどな」


「っ!! 怒られる……と思う?」


「恐らくな」


「むぅ……なら、仕方ない。

 ソフィー、カリンも気をつけて」


「えっ? はい」


「わかりました!」


「ん、じゃあまた後で」


「っ!!」


 私の膝の上にいたレフィーちゃんが、一瞬で消えちゃった!!

 たぶん転移魔法を使ったんだと思うけど……なんの魔力も感じなかったし、なにが起こったのかすら憶測の域を出ない。


「すごい……」


 前から思ってたけど、レフィーちゃんって本当に何者なんだろう?


「ふふっ、流石はレフィー様ね!!」


「カリン、お前も昨日勝手にお嬢ちゃんと決闘をした件で、ピアとレナに呼び出されてなかったか?」


「うっ、そ、そうだった!

 早く行かないとお説教が……ソフィー、また後でね!!」


 昨日も嵐のような勢いで乗り込んできたけど、今日も嵐のような勢いで出て行っちゃったな〜。

 しかし、カリンさんがあそこまで焦るとは……


「ピアさんと、レナさんとはいったい」


「あぁ、その2人なら俺の嫁だ」


「へっ?」


「こう見えて、レオンは何人もお嫁さんと子供がいるのよ。

 ピアとレナはレオンのお嫁さんの中でも、頂点に立っている2人の事よ」


 お嫁さんと子供が何人も……いやまぁ、レオン陛下はこの獣王国を統べる国王で、八魔王の一角でもあるわけだし。

 複数のお嫁さんがいて、子供も沢山いてもまったく不思議じゃないんだけども。


「まぁ、そう言う事だが……それよりも、いい加減話を始めたい」


「あっ、はい。

 わかりました」


「よろしい。

 それじゃあ、お嬢ちゃん達が俺に会いに来た理由を……」



 バンっ!!



 レオン陛下の言葉を遮りつつ、勢いよく扉が押し広げられ……


「なんなんだよ……」


 げんなりした様子でレオン陛下がため息をつく。


「重要な会談中に申し訳ありません!

 しかし緊急事態が……」


 魔力感知でカリンさんじゃない事はわかってたけど……誰だろ?

 有名な獣王戦士団の戦士かな?


「まったく、今度はなんだ?」


 えっと、これって私も聞いていいやつなの?


「し、しかし……」


 うん、やっぱり戦士さんも気になるよね。


「構わねぇ。

 何があった?」


 あっ、私達も聞いちゃっていいんだ。

 しかし、緊急事態ってなにが起こったんだろう?


「はっ! 先程、カリン様が何者かに拉致されました!!」


「……へ?」


 今なんて??

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