第370話

「っと、着いたぞ。

 ここが八魔王が一柱ヒトリ、灰燼の魔女ルイーナの支配領域、魔都アスタシアナ。

 そして……この城がルイーナの根城だ」


「「……」」


 いきなりの展開すぎて、流石にちょっとついていけない。

 レオン陛下がニヤリと戦意に満ち満ちた笑みを浮かべて、立ち上がったと思ったら……


 一瞬にして視界が切り替わって、気がついたらここ。

 黒曜石で作られているかのような、禍々しくも美しい黒いお城の前にいたわけだけど。


 眼下に広がっている都市に、立派なお城。

 これが……八魔王が一柱ヒトリ、かつて3年程前にリアットさんを狙った灰燼の魔女ルイーナの本拠地!

 うん、やっぱり……


「ちょっと待ってください」


「ん? どうした、お嬢ちゃん?」


「すみません。

 まだ心の準備ができていないといいますか……少しだけ、頭を整理する時間をください」


 だっていきなりだよっ!?

 まさかこんな唐突に、不可侵存在とされる魔王の支配領域に行く事になるなんて思ってないじゃん!!


 そりゃあレオン陛下は同じ魔王ですし?

 落ち着いていられるのも納得だけど、私からしてみれば魔王の支配領域に!


 それも普段から私達、人類国家とは基本的に関わりがない魔王の都市に!

 その根城であるお城に突撃するのには、それなりの覚悟ってものが必要なのだ!!


「なんだぁ〜、緊張してんのか?」


「うっ」


 レオン陛下が揶揄うような顔でニヤニヤしてるけど、その通りだから言い返せない!!


「まぁまぁ、ソフィーを揶揄うのはそのくらいに。

 僕達からすれば、魔王というのはそれ程の存在って事です」


 そう! フィルのいう通り!!

 なにせ魔王とは、一人一人が一国を簡単に滅ぼせる程の強者であり。

 ルーナ様やレオン陛下を見てもわかるように、悔しいけどその実力は私達Sランク冒険者をも軽く凌駕する。


 ここ数百年に渡って人類国家同士で大きな戦争が起こっていないのも、魔王という抑止力がいるからだという人もいるし。

 それ程までに! たった八人しかいないのにも関わらず、魔王という存在の力と影響力は絶大なのだっ!!


「へぇ、ここがあの魔王の支配領域なのね」


「えっ? ルミエ様も来た事がないんですか?」


「そう言えば、ソフィーには話した事がなかったかしら?

 実はソフィーが倒した不死の呪王ナルダバートと、灰燼の魔女ルイーナは魔王の中では新参者なのよ」


 何それ、そんなの初耳なんですけど……


「まぁ新参者と言っても、ルイーナは100年ほど前に、ナルダバートは80年ほど前に魔王の一角として数えられるようになったんだけどね。

 それから魔王達は八魔王と呼ばれるようになったのよ」


「ほうほう」


 そうだったんだ、全く知らなかった。

 これでもマリア先生とかから色々な事を教わってるし、王妃教育も完遂したんだけどなぁ。


「私が親しいのはそれ以前の、六魔王と呼ばれていた時からの魔王達。

 400年前の聖魔大戦時に初めて集った、そこのレオンも含めた六柱の始まりの魔王達なのよ」


「なるほど……」


 だからルイーナの支配領域である、ここ魔都アスタシアナには来た事がないと。


「あれ? でもルミエ様、ナルダバートとは暇つぶしの遊び相手だって言ってませんでしたっけ?」


「ふふっ、彼とは彼が魔王になる以前からの顔見知りだったのよ」


「そ、そうだったんですか……」


 言われてみれば、ナルダバートと会ったときルミエ様は親しそうに話してたし。

 そんなナルダバートを私は……


「その……」


「あら、ソフィーが気にする必要は何もないわよ?

 それに……ふふっ、とにかくソフィーが気にする必要はないわ」


 そう言われても。


「それよりもだ、そろそろ迎えが来るぞ」


「迎え、ですか?」


「あぁ……来たぞ」


 レオン陛下がそう言った瞬間──


「「っ!!」」


「あらあら、思ったよりも早かったわね」


 凄まじい重圧と共に、空中に姿を現した黒髪黒目の妖艶な美女……八魔王が一柱ヒトリ、灰燼の魔女ルイーナが笑みを浮かべた。

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