第363話 獣魔王

「っと」


 意気込んでは見たものの……


「う〜ん、なんと言うか……もうちょっと感慨深さが欲しいと言うか」


「ソフィー、何やってるの?

 こっちだよ」


「ふふふ、行くわよソフィー」


「あっ、ちょっと置いて行かないで!」


 目の前に聳え立つ、巨大な外壁!

 その外壁をさらに外側から囲んでいる、超大規模な結界!!


「ルミエ様、ここが……」


「えぇ、ここが八魔王が一柱ヒトリ

 獣王レオンが治めている獣人族ライカンスロープの王国、獣王国ビスバロニスよ」


 獣王国ビスバロニス。

 獣王、獣魔王とも呼ばれる魔王レオンが治める国であり……イストワール王国を始め、多くの人間の国がある大陸西方部から魔の森を挟んだ反対側。


 総じて魔物のレベルが高くて強大な魔物も多く存在する、大陸東方部に存在する人間の国家とも国交を持つ魔王の国!!

 そして、この外壁に、この結界……流石は魔王の治める国だわっ!


「ふふっ! 中に入るのが楽しみです!!」


 なんたって獣王国といえば、人間の国とも国交があるからその噂はよく耳にする。

 いわく……国土こそ都市が1つだけと広くはないが、国民の大半が戦士とされる強国!!


 特に獣王レオン配下の獣王軍に所属する戦士は、獣王国の中でも精鋭揃い。

 なんと一兵卒に至るまで、一人一人が冒険者規定でBランク以上の実力を誇るとか。


 つまり! 獣王レオンが支配する獣王国ビスバロニスは、数万にも及ぶBランク越えの軍勢とか、意味不明な恐るべき軍事力を有する国なのである!!


「えっと、とりあえず王城に向かうんですよね?」


「えぇ、そのつもりよ」


「魔王の一柱ヒトリでもある、獣王陛下をこんなに気軽に尋ねる事になるなんて……」


 いやまぁ、フィルの言いたい事もわかるよ?

 魔王の一柱である獣王レオンは世界的な大物だし、そう簡単に会える相手じゃないもん。


 でも! こっちには獣王レオンとも旧知の仲だっていう、ルミエ様がいるんだから仕方がない!!

 時間がどれだけあるのかもわからないわけだし、使える伝手は使わないと。


「そろそろだと思うけれど」


 そろそろ?


「ルミエ様、それはどういう……」


「おっ、いたいた」


「「っ!?」」


 な、なに!? 背後からいきなり声が……!!


「って、おいおい! そんなに身構えるなって。

 なにもお前らと闘いやりに来たわけじゃねぇんだからよ」


 短い金色の髪に、鍛え上げられた身体。

 鋭い縦長の瞳と何より……溢れんばかり膨大な魔素エネルギーと、その身に纏う圧倒的な覇気!!


 まず間違いなくこの人は強い!

 それこそこの人が魔王レオンだって言われても、不思議じゃないほどに……!


「貴方は……」


「遅かったわね、レオン」


「へっ?」


 ル、ルミエ様、今なんと?

 今普通にレオンって……い、いや! でもまさかこんな場所に魔王がいるなんて事は流石に。


「ったく……なんの連絡もなく、勝手に転移して来やがったくせに言ってくれるぜ」


「ふふっ、悪いわね。

 私って自由なの」


「それ自由というより、我が儘で自分勝手って言うんだ。

 はぁ……いったい誰に似たのやら」


「レオン、何が言いたいのかしら?」


 またレオンって!!


「いや、なんでもねぇぜ?」


「あ、あの!」


「ん? どうした、お嬢ちゃん」


「えっと……貴方が魔王レオン様なのでしょうか?」


「クックック! いかにも、俺が八魔王が一柱ヒトリ

 ここ獣王国ビスバロニスの王、獣魔王レオンだ」

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